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1-27 タイムスリップ
「お前が大学の屋上から譜面ばら撒いた時、俺は悔しかったんだ…
正直すげえって思ったけど、
お前の才能についていけなかったのが、面白くなかったんだ」
「あんなのただヤケ起こしただけだって」
「そんなことない…お前には特別な才能がある」
戸賀の言葉にため息が出た。
今となっては黒歴史だし、なんて子どもだったんだろうと思うばかりだ。
「僕にそんなの無いって。
ただ、人より少しだけ真剣にやってるだけ。
戸賀だってそうでしょ?だから同じ。世界観が違うだけ」
本当に才能と呼べるものがあるのはほんの一握りだ。
大体誰しもスタートラインもステータスも一緒で、あとはどれだけ時間を費やしたかだとか
タイミングがどうだとか、そんなものに過ぎない。
そうやってみんな努力して評価されていく。
それを"才能"の一言で無下にされるのは正直好きではなかった。
「…お前ならもっと高くて広いところにいける」
「音楽に高いも広いもないと僕は思うんだけど」
狭い部屋で作った曲が広いホールで歌われる。
街の片隅で流れる、どこかのグラウンドで流れる。
ただそれだけ、の話。
そんな話だったか、と左は興醒めしてしまって酒を飲み干して、立ち上がった。
「まあ、そっちはそっちで頑張りなよ?応援してるからさ
だから戸賀も応援してちょ」
左はウインクをしながら戸賀にそう声をかけた。
彼と喧嘩や戦争をしたくはなかったし、
それぞれの世界でそれぞれやればいいだけの話だ。
「…っ左」
戸賀は席を立ち、左を見上げた。
その必死な眼に、何を言っていいのかわからなくなる。
「…もしかしてあいつと、まだ、付き合ってんのか」
戸賀の言葉に眉間に皺を寄せる。
あいつ、とは右のことだろうか。
「関係なくない?」
それこそ本当に、どうでもいいことではないか。
左は苛立ちと無意味に残念な気持ちになってため息まじりに呟いた。
「じゃあね。僕もう行くから」
左は一方的に話を切って店を後にした。
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