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1-29 隣で見てる。
やっと帰ってきたと思ったら。
右は玄関で倒れている男を腕を組んで見下ろした。
「何やってんだお前…」
呆れ果ててため息をつくと、左は床を這うようにして腕を動かし
ヘラヘラと笑いながらこちらを見上げてくる。
「あぁ〜…めっちゃ可愛い天使が…迎えにきた…」
「まさか、酒飲んできたのか…?」
その赤らんだ顔と回ってない呂律の感じは、彼にしては珍しい。
学生の頃はこんな姿も度々見ていたが、大やらかしをして以来
僕は酒を禁ずると書いて禁酒します、などと宣言していたはずだが。
「水…持ってくる」
右がキッチンに向かおうとすると、
足首辺りを掴まれて静止させられる。
「待ってえん…置いてかないでえ…」
「すぐ戻るって」
「やだぁぁ…」
両手で足をホールドされ始め、右は彼の頭を掴んで引き剥がそうとするが
無駄に強い力でびくともしない。
仕方なく右はしゃがみ込んで彼の頭を撫でた。
「…ほら、ちゃんと靴脱げ」
「いかないで…みぎぃ…」
「行かないから」
赤くなったその顔は、酒のせいなのかなんなのかは知り得なかったが
苦笑しながらも彼を引き摺るように立ち上がらせて、寝室まで連行して行った。
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