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1-32 隣で見てる。

「さ…さい、のうとか…てんさいとか…みんな、っ勝手にいって…」 「うん」 「ぼくは、そんなの、と、違うし…っ!」 「うん」 「ひとりで、なんでもへいきで、できるみたいな…っ、 ぼくが、どれだけ、どれだけ…っ」 「うん」 「い、いつも、必死で…っ、!やってる、のに…!」 嗚咽しながら言葉を紡ぐ左に、 右はただ頷きながらその頭を撫でてやった。 具体的に何があったのかはよくわからなかったが 彼は本当に人一倍繊細な所があるくせに 自分でも気付かずに、まあいいか、と雑に処理してしまうから こんな風にある日突然爆発するのかもしれない、と思っていた。 「右が、いるから…ここにいられるのに…っ 僕は、ひとりじゃ、なんもできないのに…」 泣きじゃくる彼は右の服を手繰り寄せて、 いろんな液体でぐしゃぐしゃになった顔をこちらに向けてくる。 その大変面白い顔は笑いたがったが、彼のそんな言葉に右は目を細めた。 そんなことない。 そんなことは、ないのだ。 「ひとりじゃ何にもできないのは、俺の方だよ…」 右は小さな声でそう呟き、彼に額をくっつけた。 こんな風に、言ってくれるのはこの世に一人だけ。 「お前は格好いいよ…いつだって」 鼻水と涙でひどい事になっている顔を撫でながら、右は小さく笑って呟いた。 彼の世界はわからない、自分はどうしてやることもできない。 だけど、こんな風にいつも一生懸命で、何にも取り繕わずに曝け出してくれる。 そんな姿に自分は、間違いなく救われているのだ。 泣いて震えるその頭を撫でることしかしてやれない自分を恥じながらも 右はただ今この瞬間彼の側に居させてもらえている事を感じると、 ああ。こいつだったんだろうな、と思ってしまうのだった。 その事実はまるで宝石みたいに、胸の中で輝いていた。 まるで、勲章みたいに。

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