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1-33 隣で見てる。
「…ん…あれ…?」
頭がガンガンと激しく痛んでいた。
左は身体がギシギシなのを感じながら上体を起こした。
なんだか視界が酷く狭く感じるし、息苦しいような感じもした。
そこはいつも通りの自分の部屋だったが、
僅かに開いたカーテンの隙間からはオレンジ色が見えていた。
早朝なのか夕方なのかは分からなかったが、
左は頭を掻きながら再びベッドに横になる。
「うわ…やらかしたかな…」
昨夜の記憶は曖昧だ。
確か戸賀と飲んでて、帰ろうとして、やっぱやめて。
ライブハウスでめちゃくちゃ気持ちよくギターを掻き鳴らしてて。
そうだそうだ、最高だった。
左はちょっと気分良くなりながらも、ふふ、と目を細めた。
それでついつい勧められるまま酒を飲んでしまって…。
そこからあんまり記憶にない。
しかし家に帰り着いたという事は大丈夫だったということだろう。
「右……」
不意に彼のことが思い浮かんで、左は唇を撫でながら眉根を寄せた。
夢での出来事かもしれないが、
なんだか彼がずっと側に居てくれたような気がする。
そりゃ一緒にいるからそうなんだけど。
なんていうか。
左は不可解さを抱えながらも、ふらふらしながら部屋を出た。
当然ながらまだ彼は帰ってきてはいなかったが、
無意味に全ての部屋を確認して、ため息を零した。
「なんか…寂しい…」
無性に彼に会いたくなってしまって、左はうろうろしながら
仕事部屋に入った。
楽器を前にしても触る気が起きなくて、また部屋の中をうろうろしていると
ポケットに入れっぱなしだったらしい携帯端末がメッセージを受信したことを知らせてくる。
「げ…充電やば…」
左は苦笑しながらも残り少ない命でメッセージを確認すると、
新曲お願いする事になりそうです!、と近藤プロデューサーからの吉報が届いていた。
アイドルの歌なんて、という戸賀の言葉が思い浮かんだが
何故か不思議と昨日ほどはモヤモヤとしなかった。
そもそも自分はモヤモヤしていたのか、と思うくらいには。
左は苦笑しながらも、やっぱり今日は仕事するのはやめて
右の帰りを待つことにした。
なんだか彼をめちゃくちゃに抱き締めたい、
そんな気持ちでいっぱいだったから。
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