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1-40 悪役でいい
どんなに忙しくても、この時間には帰宅しているだろうという時間がとっくに過ぎ去っていた。
右は未だに帰って来ていない。
メッセージどころか電話も何度かけても繋がらず、
左はどうしていいかわからず、とにかく動き出したくて家を飛び出し
深夜の住宅街を直走っていた。
赤いお屋根の親友の家を見つけ縋るような思いでドアに飛びついて
壁に埋まったインターホンを連打する。
お願いお願い、と祈っていた。
今にも不安で不安で、死にそうだった。
暫くして玄関に明かりが灯り静かにドアが開いた。
顔を出したのは眼鏡をかけ、ジャージ姿の青年。
親友の恋人であるナナメだった。
「…左、さん?どう、したんですか…?」
ナナメは眠そうに目を細めていたが
左のただならぬ形相に心配そうに顔を覗き込んでくる。
「…なな、っめさ、…」
左は思わず涙を溢してしまい、
ナナメは目を見開きドアを大きく開け放った。
「どうしたんです!?」
「みぎが…きてな…みぎ…」
嗚咽で言葉が全く紡げず
小学生のように泣きじゃくる左の腕にナナメは困ったように触れた。
「落ち着いてください、とりあえず中に」
ナナメは慰めるように左の背中に手を回し、玄関に招き入れてはドアを閉めた。
「ちょっと、待っててください…」
ナナメはそう言うと階段を駆け上がっていった。
「ヨコさん!起きてください!」
バタバタと走る音と彼の声が家の中に響いていたが
左の頭の中は不吉な予感でいっぱいだった。
怒って家出しているならまだしも、事故にあったとか?
右が死んじゃったらどうしよう、と思うと怖くて震えが止まらない。
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