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1-42 悪役でいい

「どこか行きそうな場所とか心当たりはないんですか?」 ナナメの言葉に、考えようとした時だった。 突然携帯端末の鳴る音が響き、左は慌ててポケットに手を突っ込んだ 右からの折り返しかと思ったが、ディスプレイには戸賀の名前が表示されていた。 その名前を見た瞬間、 左は何故かぞくりと背中が震えた。 「戸賀だ…」 ぽつりと呟き、やがて電話に出る。 『よぉ左。』 「…何…?」 『あっれもしかして泣いてた?女々しい奴』 端末の向こうで、戸賀はけらけらと笑っていた。 『右ちゃんも泣いてるよぉ』 左は、呼吸すらできなかった。 様子がおかしい左に2人は顔を見合わせる。 だが左の眼には何も映っていなかった。 「……お前、右に何した…?」 『さぁねえ。気になるなら見に来れば?』 左は静かに通話を切り、立ち上がった。 涙はもう引っ込んでいて、それどころか全身の血の気が引くのを感じていた。 「戸賀が、右を拉致った」 「トガ……ってあの戸賀か?」 訝しげな表情でヨコが聞いてくるが、それに答えることなく左は歩き出し 玄関で靴を履くや否や外へと飛び出した。 「おい、待て!」 ヨコの制止も聞かず左は走り出していた。 「ったくあいつは…お前はここにいろ!」 「うぇえ!?ちょっとヨコさん…!?」 2人の叫び声が背中にぶつかったが、 左は既に頭に血が昇っていて、怒りとも絶望とも付かない冷たくて暗い感情に全身を支配されていた。

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