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1-43 悪役でいい
気を失っていたらしい。
冷たい水を頭からかけられて、
右は無理矢理現実に意識を引き戻され目を開いた。
喉がガラガラで、頭はフラフラして死にそうだった。
身体が重くて痛くて、自分の身体じゃないみたいで
眼球を動かすが、先程の薄暗い部屋と変わっていないようだったが
もう少し広い場所のような感じがした。
「気分はどう?オヒメサマ
…ってこういういかにも悪役って台詞、1度言ってみたかったんだよねえ」
床に転がる右の前にしゃがみ込みながら、戸賀は虚無にも似た黒い瞳を細めて笑った。
顎を掴まれ顔を上げさせられる。
「…なんでかな、本当、お前のどこがいいんだろうね
左は前から変わった奴だったとはいえ…」
戸賀はもの思いに耽るように呟いた。
それは右も同感だった。
正直自分は彼のように小柄で華奢なわけではない。
ナナメさんのように美形で女性っぽいわけでもない。
見てくれは至って普通のどこにでもいるただの男だ。
セックスだって苦手だし、料理の腕もそこそこで
可もなく不可もなくて。
なぜ自分が選ばれたのか、逆に聞きたいくらいだった。
「…っい…ッ!」
髪を引っ張られて身体を起こされ、右は眼を見開いた。
その顔を見て戸賀は複雑な表情で笑った。
嘲笑でも哀れみでも憎悪でもなく、なにか、壊れてしまったような。
「………あんたを抱いてんだよな、左は」
思いついたかのように戸賀は呟き、不意に右に口付けた。
右の身体が起こされ、背後にいた別の男の膝に座らされる。
戸賀は右の両手を掴み深く深く口付けてくる。
舌を絡められ、吸われ、愛撫される。
まるで、恋人にでもするかのように。
血の味のするキスに、右は首を振って唇から逃れた。
「…っや、めろ」
戸賀は真顔で右を見上げてくる。
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