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1-46 悪役でいい

「…っ、泣く、くらいなら…やめればいいのに」 右はぼそりと呟いて、肩で呼吸を繰り返す。 彼は酷く絶望したような顔で、それでも尚笑おうとした。 何も要らないと。 捨て身になれるほど人を愛することって 一生にどれだけ出来るのだろう。 自分は一生出来ないと諦めていた。 自分から探そうともしなかった。 「…お前も左も、人のことばっか考えてて 誰かのためにしか生きられないって思い込んでさ… ばっかじゃないの…」 戸賀の泣きそうな目を見つめて、右は自虐的に笑った。 自分はそんなに純粋にはいられない。 いつも深淵に飲み込まれそうで不安で、 大好きなはずなのにそれをなかなか伝えられない。 嫌われたくない、怖がられたくない。 ただの普通の人間じゃないとバレたら、そう考えるだけで怯えて竦む。 その癖に弱みを見せてもらって安心したりする、自分勝手な人間だ。 「もっと自分勝手に生きたら…?ロックンローラーのくせに…」 がっくりと項垂れて俯いた。 白濁の液体が、血と混じって床に滴り落ちていく。 汚ねー色。 それは俺の血と混じったからでしょうか。 右は何もかも諦めて、身体を飲み込んでいく深淵を見つめていた。

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