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1-51 遊び

「消したか?イイ子だなぁよしじゃあそれ貸せ?」 男達を散々弄んでいたヨコは、地面にへたり込んだ男の前で 煙草を口に咥えにこにことしていて大変機嫌が良さそうだった。 男が怖々と差し出した携帯端末を奪うと、 それを床に落として迷うことなく片足で踏み抜いた。 端末はおもちゃのように簡単に粉々になる。 「あ…」 男は切ない声を出し、すかさずヨコは彼の頭を掴むと顔を寄せる。 「あ、ってなんだよ?ありがとうございますか?あ?」 「…あ…りがとうございます…」 「よしよし泣くほど嬉しいかそうかそうか」 ヨコは男の頭をわしゃわしゃと撫でていて、 男はガタガタと震えながら、こわい…、と涙を流している。 ハッスルしすぎだろ…、と思っていると右の身体は左に抱え上げられた。 地面に転がったままの戸賀を見下ろす。 彼は死んだように動かなかった。 「…戸賀、言わなくていいのか」 右は彼に声をかけてやった。 彼は黙っていたがやがてくすくすと笑い始める。 「なんで、言うわけないじゃん…こんな状況で…」 「そうやってまた手を離したこと後悔されても、困るからな…」 戸賀は顔を上げて、凄まじい目付きで右を睨んだ。 別に怖くはなかったが、次の瞬間戸賀はまた泣き出しそうな目をした。 「…あんた、本当残酷だよね」 戸賀は覇気をなくしたように瞳を濁らせて呟いた。 世界が終わってしまったかのような静けさの中で、 何故か、漸く、 右の頬に透明の液体が流れたのだった。

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