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1-53 君がいる世界
病院に降ろしてもらって、ヨコとナナメとはそこで別れた。
大袈裟な見た目とは裏腹に、色々と検査をした結果
骨が折れているわけでもなかったようだった。
入院するかと聞かれたが仕事もあるし帰ることにした。
大袈裟に大きなガーゼやらを付けられてしまって、学校にはなんと言い訳しようかと考えてしまう。
朝焼けの中、左に手を引っ張られて歩きながら
そのぴょんぴょこと跳ねる明るい髪が、太陽に反射している様に右は目を細めた。
「…左はなんで俺のこと好きなんだ…?」
思わず口を開いた。
左は驚いたような顔で振り返り、寝不足の目を見開いていた。
「んだよその顔…」
ため息をつくと左は慌てて変な笑みを浮かべる。
「いや、その、急にでびっくりしちゃった」
「はぁ…やっぱなんでもない…」
右はなんだか恥ずかしいような泣きたいような気持ちになって歩き出す。
今度は自分が引っ張る側になろうとした時左にぐいと腕を引き戻される。
「ま、待って、ごめんってば…」
左に謝られて、立ち止まる。
彼は珍しく困ったような顔をしていた。
「…風邪…引いてたから」
「は?」
「右が風邪引いてたから…好きだなって思った」
そのロマンスの欠片もない頓珍漢な台詞に、右はしばらく口を開けていた。
なんじゃそりゃ、と少々彼の脳の異常を疑っていると
左は、あぁぁ〜そうじゃなくってぇ!、と頭を掻きながらしゃがみ込む。
「なんて言ったらいいかなぁ…全部好き、全部好きなんだよ…
顔も声も、身体も、考え方も、優しいとこも意地悪なとこも
その存在の全部が好きというか…」
盲目的なことを言われて、右は苦笑しながら彼を見下ろした。
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