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1-55 君がいる世界

「めちゃくちゃ嫌なことがあっても 忘れさせてくれんのはお前だけだろ?」 本当に、いつだって自分の方が怯えてる気がしているのに。 彼の頬を抓りながら、右はそのアホ面にまた笑ってしまう。 「俺のことそうやって必死に追いかけてきてくれんのは 世界中で、お前しかいないよ」 頬から手を離して、そこを撫でてやる。 例え深淵に落ちかけても、こうやっていつも現れて 頼んでもないのに強引に、世界と繋ぎ止めてくれる。 そんなことが出来る人間は、きっと1人だけだから。 右は彼を置いて立ち上がりまた歩き出した。 身体中あちこちギシギシで痛いし、眠くて堪らないのに 不思議と気分は晴れやかだった。 少し遅れて左は追いかけてきて、右の手を握って隣を歩き始めた。 「右、あのね…右が怪我してるから好き」 左は滲んだ瞳で微笑んで、こちらを見つめてくるので ああ、本当に。 自分の方がずっとずっと、彼でなきゃダメらしいと自覚しながら そのわけのわからない発言に片眉を上げて笑った。 「お前って変態なの?」 呆れながらも、なお。 何故か嬉しそうに腕を振り回しながら歩き始める彼に、 今世ぐらい捧げたって、惜しくないと思うくらいには。

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