56 / 66
1-55 君がいる世界
「めちゃくちゃ嫌なことがあっても
忘れさせてくれんのはお前だけだろ?」
本当に、いつだって自分の方が怯えてる気がしているのに。
彼の頬を抓りながら、右はそのアホ面にまた笑ってしまう。
「俺のことそうやって必死に追いかけてきてくれんのは
世界中で、お前しかいないよ」
頬から手を離して、そこを撫でてやる。
例え深淵に落ちかけても、こうやっていつも現れて
頼んでもないのに強引に、世界と繋ぎ止めてくれる。
そんなことが出来る人間は、きっと1人だけだから。
右は彼を置いて立ち上がりまた歩き出した。
身体中あちこちギシギシで痛いし、眠くて堪らないのに
不思議と気分は晴れやかだった。
少し遅れて左は追いかけてきて、右の手を握って隣を歩き始めた。
「右、あのね…右が怪我してるから好き」
左は滲んだ瞳で微笑んで、こちらを見つめてくるので
ああ、本当に。
自分の方がずっとずっと、彼でなきゃダメらしいと自覚しながら
そのわけのわからない発言に片眉を上げて笑った。
「お前って変態なの?」
呆れながらも、なお。
何故か嬉しそうに腕を振り回しながら歩き始める彼に、
今世ぐらい捧げたって、惜しくないと思うくらいには。
ともだちにシェアしよう!