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1-56 君のいる世界

右が笑うと、世界中、いきなり煌めき始める。 風が、光が、空気が、暖かく輝いて音を持って、溢れてくる。 ずっとずっと世界の中心は音楽だった。 そう信じていたしそうであって嬉しかった。 だけれど彼といると逆なんだ、と思うことばかりだ。 この世界があって、音楽とか芸術とか、なにかしらの表現があるんだって。 今網膜に映し出されて、肌で感じて、聞こえている、味わっている 彼が生きているこの世界があるから 全ての表現が産まれているのだと、思い知らされる。 寝不足と走り回った疲労と、怪我で2人ともボロボロだったが、 左は彼を背負いたくなって彼を背に乗せて家まで歩いて行った。 右は呆れていたものの、背中でずっとくすくす笑ってくれていて そんな風に彼が喜んでいるだけで 自分は無敵になれるんだなぁ、などと単純に考えたりした。 ベッドに倒れ込むといい加減疲れ果ててそのまま2人でちょっとだけ眠って、 いつもの時間に右は仕事へと出掛けて行った。 あんなに大変な目にあったのに、子ども達に悪いし流石に休めない、と苦笑している姿は この国の宝なのでは?、と思ってしまう次第だった。 恋人が働いている最中自分だけサボるのも気が引けて、 左も仕事部屋に引きこもってプロデュース中の晴空るりこの初アルバムについての仕事を進めて行った。 正直酷く疲れていたのだけれど、何故だか妙に心は浮ついていて 脳がバグっているせいかいつも以上に捗っていた気がする。 夕方彼が帰ってきて、いよいよとお互いに限界を迎えて また2人で泥のように眠った。 色々なことがありすぎて、日々の雑務を乗りこなして、 ボロボロで、きっと目も当てられないだろうけど 多分、最高に、ロックしていると思う。

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