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手がかり —かけ引きー

 コテージに着いた頃には俺は汗だくだった。  シャワーしたばっかなのに……! こんなに暑いと、服を脱いで海に飛び込みたくもなる。 「おかえり……って、汗すごい!」  コテージの玄関に入ると、心地よい冷気とグレイが出迎えた。 「エッ……二人でセックスしてないよね!?」 「ねーよ!!!」  お前の脳みその中には、性欲しか詰まってないのか!? サルか!! 「そんなに心配なら、お前もくれば良かっただろ」  部屋で弄ばれたのを根に持っているわけじゃないが、グレイが引きこもってるのが気に食わなかった。 「僕は仕事があるから」 「仕事……?」  こんな南国の無人島らしき島で仕事……? 「って、絶対ここ電波来てるだろ!!! 圏外って嘘だよな!」 「洸也のスマートフォンじゃ圏外なのは本当、ウソじゃないよ」  クスクスクスクスと笑っているグレイは、また小首を傾げてあざといポーズだ。 「僕のことは気にしないで、洸也は楽しんでよ」 「お前も楽しめばいいだろ! 一緒に海に入らないか?」 「あー……うん、そうしたいんだけど」 「ならすればいい、お前休暇中なんだろ! 休暇は遊べよ!」  自分が社畜ってた分際で何を言ってんだって話だが、だからこそ自分の休みを犠牲にしてまで働いてるこいつを見たくなかった。  自分を見てるみたいだ、そして俺は働かないで暇を持て余している罪悪感を感じる! お前も遊べ!! 俺を罪悪感から解放しろ! 「あぁ、洸也……君は本当に変わらないね」  両手で顔を覆って、オーバーリアクションをするグレイに、本人を真似てあざとい小首かしげポーズで返した。 「あー……俺とお前ってなんかあった? ごめん、覚えてなくて」  殴られるのは心底嫌なので、心から申し訳なさそうな顔をして聞く。 「洸也は9年前にも同じようなことを言ってたよ」 「は……? 9年?」  えっ、8年前じゃないの!? ジェイスー!?? あいつコテージに入らなかったから、問いただすにただせない。 「9年って……俺16? グレイは11歳か……俺、多分お前に会ってたら忘れないと思うんだけど……」  本当に俺だった? って言葉を言いそうになって、危なかった! 危うく殴られるところだった。 「ほら、お前の目ってすげー綺麗だし! 顔もいいし! 忘れるわけないと思って!」 「それ、洸也に言われると……すごく嬉しいかも」  いつものように小首を傾げてるが、その嬉しそうな顔は作られたものじゃなかった。  うおおおおおおお……! なんだその笑顔っ……可愛っ……!! こんな俺の上っ面で言ってるような言葉で、そんなに喜ぶか!?  思わず胸の奥がキュッと締め付けられたのを誤魔化したくて、自覚したくなくて話を先に進めた。 「だからさ、俺とグレイが会った時の話教えてくれよ、俺も思い出したいしさ!」 「いいよ、洸也の部屋に行こう」  グレイが俺の手を握って引いていく。さっきジェイスと繋いだのとは逆の手で、良かった……こっちは手汗かいてないからな。  部屋に入るとなんの躊躇もなくベッドに座ったグレイに、少し距離を取るようにベッドサイドのイスに腰かけた。 「洸也、そっちは遠いよ」 「あー……俺汗かいてるから」  隣なんかに座ったらヤられるだろ……。  少し不満そうにしたグレイは、移動して俺の真正面まで来た。 「僕と洸也の出会いの話だよね」  そう俺の手に、手を重ねてくる。 「俺、その時も今日と同じこと言ったの?」  16歳……中学卒業したばっかりの俺が、十一歳の外人に向かって、休め! 遊べ! と説教したのか? 正直信じられない。 「洸也は僕に、自分の好きに生きていいって言ってくれたよ、他の人なんて関係ないって」 「えぇ……マジで?」  俺そんな事言ったの!? 確かに当時はまだ中二病も卒業できてなくて、俺はやれば何でもできる、そんな潜在能力のある人物なんだと……そんなイタいことを思っていた時期があった気がするが。  あー……言うかもな……いや、言う! 当時の俺なら言う……! 自分一人で生きていけるなんて、過剰な自信があった頃だ。  急に自分の黒歴史のフタを開けられて、小っ恥ずかしくなってきた!!!! 「ほ、他にはなんか……」 「アイスクリームをくれたよ! 分けて食べられる!」  あー……パ○コな! ハマって毎日食ってた時期あったな。  聞いている限りグレイの言うことは、それが俺であったことを裏付けている気がする。  しかしだ、もし本当に俺がグレイと会っていたのなら、恐らく翌日にはクラスのみんなに言って回っていただろう。 『俺、外人にアイスあげたんだぜっ!』  みたいな、謎自慢を。  そして忘れるはずもないんだ。 「自分の好きにしろなんて言ってくれたの、洸也がはじめてだったから……すごく嬉しかった」  確かに大企業の社長息子という立場で、コイツの周りの人間はそんな無責任なこと言うわけがないよな。 「今の僕があるのは洸也のお陰、すごく感謝してるよ」 「感謝してんのに、レイプすんの?」 「好きで好きで気持ちが抑えられなかった、好きにしていいって言ったのは洸也」  犯罪を犯せとは多分言ってないけどな!!!! 「でも俺、イヤだっていっぱい言っただろ?」 「イヤヨイヤヨモスキノウチ」 「都合のいい言葉を覚えてんな!」  手を握ったままキラキラした目で俺を見てくるグレイに、はぁ……とため息が出た。 「好きなら暴力はやめろよ……俺、痛いの嫌いなんだけど」 「……」  なんで眉間にシワを寄せたまま黙るんだ? 「……しないようにする」 「しない、とは言えないのか」 「怒ると体が勝手に動いちゃう……けど、我慢するから嫌いにならないで」  眉をハの字に下げて、申し訳なさそうな表情のグレイに、謎の優越感を感じる。俺を一方的に暴力で従わせていたのに、プライドだって高そうなのに、俺のいう事を聞こうとしている。  そんなに俺に嫌われたくないなんて、可愛いところもあるじゃないか。 「だから、洸也も逃げないでほしいな」  更に力強くギュッと両手を握られて、真正面から見据えられたら、視線が外せない……圧で逃げられないと感じさせられる。 「逃げないで、否定しないで、拒否しないで」 「……拒否権ないのかよ」 「否定されると頭にくる、逃げられるといじめたくなる……しないようにするから、させないで欲しい」  ガキのわがままかよ!! 「洸也、まだ僕のこと思い出してないでしょ? 僕はとても傷付いてるけど、慰めてくれないの? 恋人なのに……」  両手を上に重ねて握ったまま、グレイの顔がすごく近くなる。確かに、9年も慕ってくれているのに、思い出せない事に罪悪感はあるが……。  ゆっくりとグレイとの距離が近付いてくるが、逃げるといじめたくなると言われたら、逃げられない。  探るように、触れるか触れないかの距離で止まったグレイは、フッと少し笑ってから軽く触れるだけのキスをしてきた。 「洸也、大好きだよ」  チュッ 「僕には君が必要」  チュッ 「思い出さなくてもいいよ」  チュッ 「そのかわり、僕を好きになってね」  喋るたびに、音をたててチュッチュッとしてくるグレイに……顔が沸騰するかと思うほど恥ずかしくなった。 「わかった! もう、わかったから! やめろ恥ずかしい!」 「本当はもっと言いたい、日本語で気持ちを伝えるのは難しいよ」  もっと……!? これ以上は恥ずかしくて脳回路が焼き切れる! 「あ、洸也にもう一つお願いがあるんだ」 「……なんだよ」 「イヤヨイヤヨモスキノウチはやめないで、レイプしてるみたいですごく興奮するんだ」 「いや、まごう事なきレイプだったけどな」  出来るだけ冷たい視線を送ってやったら、オーバーに眉を上げてニコッと口元だけ笑った。 「だったって事は、今は合意だよね? 恋人だしね! 洸也にも恋人らしい事して欲しいな」  一度離れた距離がまた近付いて、今度はかぷっと食べられるようなキスだった。強く結んでいたわけでもない唇が開かれて、舌が入ってくるとくすぐったいような感覚だ。  やっぱりグレイとキスすんのイヤじゃないな……。  入ってきた舌をチュッと吸うと、『んっ!?』なんて意外にも初々しい反応をして、可愛いと思ってしまった。  つい興が乗ってしまって、舌先でくすぐったりしてしまったところで、引き寄せられてベッドに押し倒された。 「……洸也、それ誘ってるよね?」 「――っ! お前が"らしい"ことして欲しいって言うか……んうっ!」  何度も角度を変えて、食い付かれるようにキスされて……ヤバいと思った時にはもう遅かった。  押しのけようとグレイの肩に手を置いてもビクともしない! むしろ上に体重を乗せられて、見た目より重いその体に、グレイは男なんだと意識してしまった。  俺はこの状況で、何を考えて何を思って、何をしたらいいんだ!? 頭も目の前もぐるぐる回って、何も考えられなくなってきた!  はぁ……とグレイが切ないため息を吐いたかと思ったら、俺の股間にゴリッと……かっ、硬いものが! っていうか俺のも勃ってる! グレイとキスして興奮してんの俺!!? 「もー……どうしてくれるの? 僕これから会議なんだけど」 「おっ、おう……頑張れよ」 「仕事なんてほっといて、セックスしようって言ってくれないの?」 「約束は守らないとなー?」  ムスーッと一瞬不機嫌そうになったグレイは、渋々俺の上から起き上がった。  テントを張ってるズボンが苦しそうだ……何度見ても顔に似つかわしくない大きさだな。 「汗かいたから、シャワーするでしょ?」  勃たせたまま堂々と歩き出したグレイだが、思わず自己主張の激しい部位を見てしまう。 「準備して待ってて……会議が終わったら抱いてあげる」 「いやっ、ちょっと……待っ!」 「ちゃんと我慢しててね、ジェイスに手を出しちゃダメだよ」  投げキッスを俺に向かって飛ばしながら、俺の部屋の扉を開ける。すると、開けた先にはジェイスが居て……! いつからそこに!? なんて恥ずかしさが一気に込み上げてきた。  グレイのあの言動だけ聞いてれば、まるで俺から求めてるみたいじゃないか! 違うからああああっ!  勃起してるのを隠そうと、思わずベッドの上にごめん寝の状態で突っ伏した。 「ジェイス、手伝ってあげて」 「いいのか?」 「いいよ、でも僕より先に食べちゃダメだよ」  何の手伝いだよ!?? シャワーくらい一人で浴びれますけど!?? ガバッと顔を上げて抗議しようと思ったら、グレイはもうそこに居なかった。 「じゃあ行くか」 「いや、一人で入れるから……」  グレイに言われるままシャワー浴びるってのも、なんか抱かれ待ちしてるみたいでイヤなんだが……。  しかし、幾分引いたとはいえまだ服も汗で若干濡れてるし、シャワーを浴びたい気持ちは強い。 「本当に一人で出来るのか?」 「何がだよ、子供じゃないんだからシャワーくらい」 「準備だよ、尻の準備」  パチンパチンと二回ほどウィンクを貰って、何を言っているんだ……と眉をしかめたところで思い出した。  あああああああっ! 事故防止!!!

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