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おさまる

 かなり鈍い音がした、めちゃくちゃキレイに入った……。  さすがに避けるか、防がれるかされると思ったから、殴った俺の方がびっくりしている。  しかし、そんな様子を悟らせるわけにはいかない。 「これでお前も診断書が出るんじゃないか? 被害届出してもいいぜ、俺は出さないけどな」  顔を押さえながら起き上がったグレイは、たらりと鼻血を垂らした。  あー……コレ折れてたら、マジで診断書出ちゃうやつじゃん、やばぁ。  そしてさっきから、後ろで扉にタックルかましてる音がする。  バキバキミチッ! と、すごい音を立てて、ジェイスが扉を壊して乱入してきた。あの身長のデカさと、筋肉は伊達じゃねぇな。 「お前ら! 何やって……!」  駆け寄ってきたジェイスが、グレイを見て顔面蒼白になった。 「グレイッ!???」  オロオロと狼狽しながら、グレイの鼻を手で押さえようとしたり、押さえるものを探したりしている。 「コーヤが殴ったのか!?」 「俺だって腕折られそうになったんだ、正当防衛だろ」 「何やってんだよお前ら!!!」  なんだか泣きそうな顔になったジェイスが可笑しくて、グレイへの怒りがすっかり落ち着いてしまった。  俺に殴られた衝撃のせいなのか、グレイは鼻を押さえたまま呆けたようにして動かない。 「なぁ、お前の言う責任って、俺のこと拉致った責任って意味だったのか?」  俺はてっきり、プロポーズの類だと思ってたよ……。なんだ、俺の勘違いだったのか……あんなに愛してるって言ってたくせに、最後は俺と離れる覚悟をしてたってわけかよ。  心の中の自分の声に悲しくなってきて、思わずホロリと涙が溢れた。 「なんで、そんな簡単に……何もなかった関係に戻そうとすんだよ……俺、こんなにお前らのこと好きになってんのに、俺の片想いなのか?」  そんなのあんまりだ、勝手に拉致って、勝手に無人島に閉じ込めて。  勝手に人の体いじくって、男とセックスできる体にして、美味しいご飯食わせて、しっかり運動までさせて、早寝早起きさせて、人のこと勝手に健康にしといて……俺の心までお前らに預けたのに……こんなの、あんまりだ。 「好き……?」  グレイが鼻血を拭いながら、呆けた表情で俺の顔を見上げた。 「あぁ、好きだよ! 俺はお前らが大好きなんだよ! ここから出て行ったって……俺はお前らと、関係を切りたいなんて……思ってないのに、なんで!!」  頭にガアアッと血が上って、涙が溢れた。  興奮して言葉がうまく出てこない。 「俺、もっと一緒にいたいって……思っちゃいけないのかよ!!! なんで俺がお前ら訴えるんだよ!! こんなに好きなのに!! そんな事するわけないだろ!!!!」  情けなく子供みたいに涙をこぼして、ベッドに何度も拳を叩きつけた。 「だって……だって洸也ッ! 1度も言ってくれなかった!」 「何をだよ!」 「僕がッ、何度も言ったのに!! 愛してるって!!! 1度も言ってくれなかった!!!!」 「あいっ……」 「ウソでもいいから……言って欲しかったのに……!」  うわあああっと、グレイまで子供みたいに泣き出した。 「だから言わないんだろ! お前っ! 俺が愛してるって言ったら……ウソだと思うんだろ!! だから言わないんだよ! わかれよ!!!」  俺までつられてうわああっと泣いた。  まるで子どものケンカみたいだと思ったが、感情が抑えられなかった。 「落ち着け……2人とも、お前らケンカになってない……それはただの惚気だ」  一番慌てていたはずのジェイスが、気づけば一番落ち着いていた。  冷静にグレイの鼻をタオルで押さえながら、俺の背中をゆっくりとさすってきた。 『グレイ、ちゃんと聞くんだ。いいな? コーヤはお前のことを愛してる』 『洸也はそんな事言ってない! それなら今、愛してるって言って!!』 「コーヤ、グレイは愛してるって言って欲しいみたいだぞ?」 「日本人の"愛してる"はそんな安くねーんだよ」 「あぁっ!? めんどくせーなお前ら!!!!」  フッと思わず笑ってしまった。  つまり、グレイは俺の気持ちが確かめられなくて、拗ねてあんな暴挙に出たというわけか。  確かに今まで1度も、ちゃんと口に出して言わなかった。  グレイからすれば無理やり連れてきた手前、好かれているって自信がなかったのかもしれないな……そこは、完全に俺の落ち度だ。  それにしても、思い込んだらやる事が極端なヤツだ。 「グレイ……こっち向け」  スンスンと泣いているグレイに近寄ると、目元を真っ赤にして俺を見上げてきた。  よかった、鼻血は止まったみたいだ。  グレイの前に膝をついて、その目元をぬぐって、俺から唇にキスをした。 「好きだよ、グレイ……言っとくけど、俺、お前のことめちゃくちゃ好きだから」 「それってLove?」 「アイラブユーは、本気で言いたくなった時に言ってやる」  グレイが眉を上げて驚いた表情に変わった。そんな表情の変化ひとつとっても、既に俺には愛しいものだ。  ジェイスが俺たち2人の背中をポンポンと叩いて、立ち上がる。  その仕草は、今にもこの場から去る勢いで……俺は思わずジェイスの手首を掴んだ。 「どこ行くんだよ」 「いや、オレは邪魔だろ?」 「なんでそうなるんだよ、俺はお前"ら"が好きだって言ってんだよ……ジェイスは含んでるからな」  今度はジェイスが目を丸くさせた。 「洸也、それって堂々とフタマタ宣言じゃない?」 「お前らだって、ずっとそういう関係だったんだろ! 俺が2人を同時に好きになって、何が悪いんだよ」  ハンッと開き直るように空いた手を腰に当てると、グレイは面白おかしくケラケラと笑い出した。 「いや、グレイはオレの事をそんな風に見ていない! オレは……」 「大切な人だと言ったでしょ?」  今度はグレイがジェイスのもう片方の手首を引っ張って、2人で逃げられないようにした。  グイグイと俺たちに引っ張られて、ジェイスがベッドの上に乗ったところで、2人でジェイスを捕まえた。 「俺とグレイだけだったら、今ごろ殴り合ってた……ジェイスが居てくれないと困る」 『忘れたのか? 僕の指示無しに、僕から離れることは許さない。ずっと昔に言ったはずだ』 「あぁっ、もう、分かったよ! 俺だって一緒に居たいよ、認めるよ!」  ジェイスは両手を上げて降参のポーズをした。そのまま俺たち2人の上に、その大きな体を被せるように倒れ込んでくる。  めちゃくちゃ重い! けど、その重さが好きだと思う。  狭いベッドで、成人した男が3人、イチャイチャしながら寝転がった。  俺とグレイでジェイスの頬にキスをして、俺とグレイでキスして、また3人で舌を絡ませてキスすると、ムラムラしてくるのは必然だった。 「この部屋じゃ狭くないか?」  俺から誘ったら、2人はニヤッと笑って、2人して俺をベッドから引き上げた。 「愛してあげるよ、洸也」 「2人分、受け入れる準備は出来てるんだろ?」

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