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誓いのような
市川さんが俺の服のボタンに手をかけたのが感覚で分かった。
押しのけたい。でも遼一が信頼してる人だし。でも…。一つずつ外されてる時間、いったんここで時間を止めてほしかった。
自分がどう動いたらいいか、まだ決められない。そうしてる間にもボタンは全て外されていく。
「こんな上玉、さっさと店に出せばいいのに」
カチャカチャ音がして、次はズボンのベルトにも手がかかっている。
その時、外でバタバタバタと騒がしい音がして、玄関のドアが勢いよく開いた。
「博美さん!何してんすか!瑞希は俺だけのです!誰にも、博美さんにも客にも抱かせませんから!」
市川さんに殴りかかるんじゃないかって勢いで遼一が入ってきた。
遼一、遼一、土足のままだよ…。後で俺が掃除するんだよ…。嬉しくて、声が出なくて、余計な事を考えてるなって自分で自覚してた。
「………おっせーよ。お前自分の気持ちに気づいてた癖に決断すんのおせーから」
「えっ、もしかして博美さんわざと…」
「なんで俺がわざわざお前に置き手紙して、お前んちにいるって書いてったの思ってんの?早く来ねぇから手ぇ出すギリギリだったじゃねぇか。あっぶねぇな〜。人のもんに手ぇ出す趣味はねぇんだよ。で、借金どうするよ?」
「…俺が払います!」
「よく言ったな。こいつも働いてんだから、こいつの金は生活費に使って、お前の金借金の方にあててけば、順調に返せんじゃね?もしくは自己破産とかパン屋新しそうだからそのまま売っぱらうとか。んじゃ、そういう事だから、支払いの方は後で上と話せよ」
博美さんは振り向きもせずに片手をひらひらさせて部屋から出ていった。じゃぁなってしてるつもりだったんだろう。やっぱり…遼一が信頼してるだけある人だ…。
あっ、あはっ、真っ赤な顔で汗かいてる遼一がいつの間にか俺のすぐ近くに座ってる。
「遼一。今のって…?」
「ん。聞いての通りね。俺が瑞希に惚れてるから、客になんか勿体無くて触らせたくないってわけ」
「あはっ、俺も。俺もね、さっき市川さんに触られて、遼一じゃなきゃ嫌だって言ったんだよ」
素直に伝えてくれたから、こちらからも素直に言えた。
恥ずかしかったけどね。恥ずかしいよりも、想いを伝えあえると、こんなに幸せな気持ちになれるんだね。
「本当に?」
「本当だよ。聞こえなかったの?」
「だって俺、慌ててたから」
「ほんとに。汗かいてるね。じゃぁ、もう一度言うね。エッチな事されるなら、初めてもこれからも、遼一じゃなきゃ嫌です」
おでこの汗を袖で拭ってあげて、誓いのキスのように、初めて自分から遼一に抱きついてキスをした。されるのを待ってるんじゃなく、自分からも触れたかったから。
それはまるで、これからも一緒だと証のようだった。
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