35 / 43

実家

 次の土曜、瑞希を連れて実家に向かった。  事前に母親に連絡しといたから親父もいるはずだ。    「遼一、大丈夫?顔色悪いんじゃない?」 「あぁ。ちょっと緊張してるだけだ」 「にしても…遼一の実家大きいね。この塀の向こうがそうなんだよね?」  そう、俺の実家はやたらデカイ。まず囲っている塀の端から端が見えないのは異様だ。初めて来た人間は入口がどこか、下手したらぐるりと塀を一周する羽目になるかもしれない。  幼い頃はこのデカさが異常だとは気づかなかった。学校に通うようになって、帰り道で友達が入っていく家が、俺の家の犬小屋くらいの大きさで、アレが家だと分かった時に、俺の家はおかしいから友達に知られちゃいけないと思ったものだ。  まさか、一番大事な相手に紹介することになるとは、今までの俺からしたら考えられない事実だ。  いかにも日本家屋という姿の引き戸を開けると家の敷地に入る。 「若!お帰りなさいませ!」  十人はいるだろう成人男性の気合の入ったお帰りなさいの挨拶に、隣の瑞希は引いてるかもしれないなと隣を見ると…楽しそう? 「遼一すごい!慕われてるんだね!これだけの人が遼一を大事にしてくれてるんだね!」 「そうなんすよ若のお友達さん!みんな若が小さい頃から、おしめしてる頃から見てたんで可愛くてしゃぁないんすよ。それが成人したから外で一人暮らしするなんつぅから、寂しくて寂しくて」 「こうして顔見せに来てくれて良かったっす!」 「親父も姐さんも中でお待ちですよ」  四方八方から話しかけられ瑞希は目が回りそうになってる。そんなとこも可愛いなとのんびり眺めてたんだが、そんな場合ではなく助けなくては。 「じゃ、親父とお袋んとこ行くから」 「若〜。夕飯も食べてって下さいね〜」  やっと玄関に入って瑞希に問う。 「引いてないか?大丈夫?俺んちちょっと特殊でさ」   「さっき言ったじゃん。遼一、たくさんの人に愛されて育ったんだね」  満面の笑みでそう言われ、瑞希はお世辞じゃなくそう思ってくれてるんだなと思った。  全く、肝の座った変わった奴だよ。これだから、、手放せねーよなぁ。  長い廊下の一番奥が客が来た時用の応接室になってる。そこで待ってるって言ってたな。  つい、歩く速度が遅くなる。逃げ出したい気持ち、向かい合うのが怖い気持ち。でも今は、瑞希が隣についていてくれてる。  俺の緊張に気づいたのか、瑞希が両手で俺の手を握りしめてくれていた。 「遼一なら大丈夫」 真っ直ぐ見つめてくる瑞希の二つの瞳。 「あぁ、そうだな」

ともだちにシェアしよう!