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実家
次の土曜、瑞希を連れて実家に向かった。
事前に母親に連絡しといたから親父もいるはずだ。
「遼一、大丈夫?顔色悪いんじゃない?」
「あぁ。ちょっと緊張してるだけだ」
「にしても…遼一の実家大きいね。この塀の向こうがそうなんだよね?」
そう、俺の実家はやたらデカイ。まず囲っている塀の端から端が見えないのは異様だ。初めて来た人間は入口がどこか、下手したらぐるりと塀を一周する羽目になるかもしれない。
幼い頃はこのデカさが異常だとは気づかなかった。学校に通うようになって、帰り道で友達が入っていく家が、俺の家の犬小屋くらいの大きさで、アレが家だと分かった時に、俺の家はおかしいから友達に知られちゃいけないと思ったものだ。
まさか、一番大事な相手に紹介することになるとは、今までの俺からしたら考えられない事実だ。
いかにも日本家屋という姿の引き戸を開けると家の敷地に入る。
「若!お帰りなさいませ!」
十人はいるだろう成人男性の気合の入ったお帰りなさいの挨拶に、隣の瑞希は引いてるかもしれないなと隣を見ると…楽しそう?
「遼一すごい!慕われてるんだね!これだけの人が遼一を大事にしてくれてるんだね!」
「そうなんすよ若のお友達さん!みんな若が小さい頃から、おしめしてる頃から見てたんで可愛くてしゃぁないんすよ。それが成人したから外で一人暮らしするなんつぅから、寂しくて寂しくて」
「こうして顔見せに来てくれて良かったっす!」
「親父も姐さんも中でお待ちですよ」
四方八方から話しかけられ瑞希は目が回りそうになってる。そんなとこも可愛いなとのんびり眺めてたんだが、そんな場合ではなく助けなくては。
「じゃ、親父とお袋んとこ行くから」
「若〜。夕飯も食べてって下さいね〜」
やっと玄関に入って瑞希に問う。
「引いてないか?大丈夫?俺んちちょっと特殊でさ」
「さっき言ったじゃん。遼一、たくさんの人に愛されて育ったんだね」
満面の笑みでそう言われ、瑞希はお世辞じゃなくそう思ってくれてるんだなと思った。
全く、肝の座った変わった奴だよ。これだから、、手放せねーよなぁ。
長い廊下の一番奥が客が来た時用の応接室になってる。そこで待ってるって言ってたな。
つい、歩く速度が遅くなる。逃げ出したい気持ち、向かい合うのが怖い気持ち。でも今は、瑞希が隣についていてくれてる。
俺の緊張に気づいたのか、瑞希が両手で俺の手を握りしめてくれていた。
「遼一なら大丈夫」
真っ直ぐ見つめてくる瑞希の二つの瞳。
「あぁ、そうだな」
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