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−−−島野瑞希side−−−
今朝から…というか俺を自分の実家に誘ってからずっと、遼一が緊張してるのが伝わってきてたから、それなら俺は、遼一の実家に行くらいなんてことないよって顔してなきゃなって思って、そう振る舞ってたつもり。
そしたら当日…まず出迎えの人達からして、遼一は組の人たちに可愛がられて育ってきたんだなってのが分かった。そんな組をまとめてる遼一のお父さんが悪い人のわけがない。
部屋に通された時は眼光の鋭さにちょっとビビってたけど、平常に見えるよう心がけた。
話し始めてみると案の定、子煩悩なの隠す為に顔を作ってたなんていう可愛らしい人だった。
遼一と全く同じ吊り目してるから、そこを気にしちゃうと笑いそうになって下むいてたんだけど、おかしくなかったかな。
「こっちよ〜。足元段差あるから気をつけてね」
遼一のお母さんが呼ぶ声に続いて、先程通った廊下を戻り、玄関から近い場所に広い台所があった。これ…八畳以上あるんじゃない?
「ここよ瑞希さん。あの、うちの人達でパン作りしてたから材料はまとめてあるの。ここ。これ」
「母さん、届かないなら最初から言ってよ」
高い位置にまとめてあった材料は遼一が取ってくれた。
「母さんだって背伸びすれば取れると思ったんですー」
なんだかやたらとデカいケース。
「瑞希。作れそう?」
蓋を開けて材料を確認する。
「これだけあればパン・ド・ミ以外もっと色々作れちゃうよ。でも今日は父さんの作るパン・ド・ミだけ目指して作るね」
「あぁ、よろしく」
「よろしくじゃなくて、遼一も一緒に作るんだよ」
「あっ、あぁ」
ちょっと引きつった顔に見えるのは、今日はこんなはずじゃなかった。ってとこかな。分かる分かる。緊張してきたのに、何故か穏やかにパン作りだもんね。俺も不思議な気分だよ。
遼一に指示しながら手際よく作ってると、遼一のお母さん、朱美さんも物珍しそうに覗き込んでいた。
「やってみますか?」
「いいの?遼一、母さんもやってみていい?」
「別に俺に訊かなくても瑞希がいいって言ってんだから…」
「そうね、そうするわ」
捏ねていた生地を半分に切って渡して、同じように捏ねてもらう。
「お義母さ…じゃなくて朱美さんお上手ですね」
「あら、瑞希くんたら気が早いけどお義母さんでいいわよ。この子ね、人に本音話すような子じゃないから、他人と深く関われなくて、結婚とか、孫とか諦めてたの。でもこうして瑞希くん連れてきてくれたから嬉しくて。きっとあの人もそうよ。今頃一人でニヤニヤしてるんじゃないかしら」
「ま、孫は無理ですけど…」
「いいのよ。そんなに深く付き合える相手が遼一に出来たことが嬉しいの。あら?遼一照れてるの?粉が飛び散りすぎだわ」
朱美さんの声に見てみると、遼一はまとめた生地を叩きつけて散らかしてた。顔を見ると、真っ赤なのが隠せてなくて、照れくさいんだな、愛しいなって思えた。
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