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二人とも生地をまとめたところで、騒がしい声と足音がしてきた。
「若!何やってるんすか?」
さっき出迎えてくれた人達だ。
「ん?パン作ってるんすね?俺らも散々作りましたよ〜、おやっさんなかなか納得してくれなくて…って、姐さん!」
「いいのよ。私もそう思ってたんだから。あの人しつこかったでしょう。島野さんちの味じゃない…何か違う。おい!やり直すぞ!って。みんな和食が食べたい食べたいって言ってたわよね。今ね、島野さんの息子さんの瑞希くんが、お父さんの味出せるかもって、うちの遼一と作ってくれてるのよ」
「そうでしたか!瑞希さん!ありがとうございます!」
一人がそう言うと、後ろにいた数人もありがとうございます!って大きな声でこちらに向かって会釈してくれて、正直圧倒されてなんて返事していいか困ってしまった。
「い、いえ」
「お前ら、瑞希が困ってるじゃねぇか」
「若!すんません、堅気の方と話すのが久しぶりでよく分からなくて」
そっか。俺が返事に迷ったのと同じように、この人達も戸惑ってるんだ。それなら……
「あの、良かったら一緒に作りませんか?」
「なんですかこの状況は?」
「博美さん!お疲れ様っす!みんなで瑞希さんにパンの作り方教えてもらってたんすよ。おやっさん喜んでくれますかね」
「すごいんすよ。瑞希さんの手あったかいんす。パン作りに向いてるらしいんすよ」
「手…触ったんですか?」
「はい!」
「…遼一の顔見た方がいいですね」
遼一?遼一のお父さんに食べてもらいたくて頑張ってる皆さんに教えるのが楽しくて、遼一の顔を見てなかったことに気づいた。
探して見てみると、遼一は台所の隅にある椅子に座って苦虫を噛み潰したよう顔?をして座っていた。足を組んで腕組みしてこちらを見てる様子からしても、なんだか不機嫌そうだ。
「遼一。言わないと伝わりませんよ」
「博美さん……。俺だってそんなにホイホイとはまだ触れないのに…なんだこいつら俺の瑞希の手ベタベタと触りやがって、面白くねー」
「若!すいやせんでした!おら、お前ら行くぞ!」
「兄貴!手は…」
「手なんて外の水道で洗えるだろうが!」
賑やかだった台所は、あっという間に遼一と俺と博美さんだけになった。朱美さんもいつの間にかいなかったんだな。
「瑞希くんお疲れ。こないだはすまなかったね」
「あっ、いえ……あれで吹っ切れたというか丸く収まったというか。ありがとうございました」
「ぷっ。まさか襲うフリでお礼言われるとはね」
「瑞希だからな。早くその生地焼いて帰ろうぜ」
遼一は自慢気に言ってくれたけど、早く帰ろうって言ってるからには、まだご機嫌斜めなのかもしれない。
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