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二人の家

 あれから、博美さんを交えて遼一の昔のエピソードなんかを話してもらってる間にパン・ド・ミが焼けた。  遼一のお父さんは「島野さんのパンだ…」とちょっとだけ涙ぐんでくれて、それを見た遼一の顔は驚きを隠せない様子だった。  せっかくだから遼一の部屋か離れに泊まってくといい、離れならこちらに何も聞こえないしと気を使って言ってくれたけれど、遼一は今日は帰るって言い張った。「でも…また来るから」と言ったら朱美さんもお父さんも喜んでくれてたなぁ。和解?というか、今から理解しあっていくんだなって俺も嬉しい気持ちに、少しだけ羨ましい気持ちになった。俺も、もっと両親と話したかったな、遼一を紹介したかったなって思ってしまったから。  今度、墓参りに一緒に行ってもらおうかな。その時は弟妹も連れて。  それから、俺のやりたい事を話せる空気になって…… 「あの、借金は少しずつですが返済します。今のお給料からと、日曜だけのパン屋をやって返済したいです…遼一が紹介してくれた男性向けソープ?の方が早く返済出来るんでしょうけど…それは…俺にはハードルが高くて難しかったので…甘えた事を言って申し訳……」 「うわぁぁぁぁぁ!」 「なんだと!!!」 「あらあら遼一ったら、瑞希くんにそんな提案するなんて」  俺の発言は三者三様の声にかき消された。 「あの時は!親父の教え通り早く返済させるにはそういう店だと思って!自分の気持ちより仕事優先に考えてだなぁ!」 「お前島野さんちの息子さんになんてもん勧めてやがる!切腹して俺が詫びを!」 「あらあら、あなたったら瑞希くん引いてるわよ。この時代に切腹とか言い出すのいい加減止めてくださらないかしらね。ねぇ、瑞希くん」  壁にかけてあった高そうな日本刀を手に取ろうと立ち上がるお父さん。朱美さんの声で我に返って止めようとする遼一。そんな二人を尻目にホホホと笑いながら俺に話しかけてくる朱美さん…。  うん、賑やかだったな。その後で泊まってく提案されても遼一も断るって話か。 「瑞希、変なとこ見せてすまなかった」  今日は疲れただろうから俺が夕飯用意するから座ってろと、半ば強制的にソファーに座らされてた所に、遼一が食事を運んできてくれた。  遼一の実家から頂いたハムだの生野菜ちぎっただけのサラダだの、それからパン。  変な夕飯だけど、家の中をゴミ部屋にしてた遼一から見たら凄い成長だと思う。 「ううん、連れてってくれてありがとう。楽しかったよ。遼一のご両親とも仲良く出来たし」 「そうか、なら良かったけど…」  夕飯食べるのに向かいに座るんじゃなくて隣に座ってきた遼一。こんな近いと食べづらくない? 「瑞希、食べる前に手握ってもいいか?あいつらだけ散々触りやがってモヤモヤする」 「もちろんだよ」  それで隣に座ったんだね。戸惑ったように片手だけ手を繋いで、その後もう片方の手も添えてギュッと握ってくれた。 「ほんとだ。温かいんだな。体温高めなのか?」 「体温は知らないけど、父さんに似て手が温かいわねって母さんに言われた時あったかな」 「そうか……瑞希、改めて言うけど、ここに一緒にいてくれるか?」 「もちろん。二人の帰る場所でしょ?」  しっかり目線を合わせて返事をしたら、遼一の吊り目が優しい糸目になって笑ったんだ。  

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