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第42話

 遼一の家に住むようになってから半年。色々なことがあった。  平日は今までの職場に勤めて、日曜だけのパン屋をオープンさせたら、案外口コミで広がってくれてお昼前に売り切れなんていう嬉しい日もある。イートインスペースも設けて、飲み物も出せるようにした。日曜だから、朝からやってきてくれる家族連れもいたりして、子どもたちが「美味しいね」って両親に話しかけてる姿を見たりすると、ほっこりすると同時に子どもが産めない俺で良いのかななんて思ったりもする。  そんな時、レジに立つ遼一が気づいてくれて、後から「瑞希に隣にいてほしいんだよ」って、お客さんに聞こえない程度の声で言ってくれるから、安心するんだ。 「口下手でいつも同じことしか言えなくてゴメン」って家に帰ってから言われたりするけど、俺はそのいつものが安心するから、同じ言葉がいいって伝えてある。  そうそう、店の口コミはね、遼一の周りの人たちが拡めてくれたり、SNSで美味しかったって呟いてくれてるみたいだ。たまに「兄貴のパンまじうまいッス」とか見かけるのは、素で呟いてたくれてるんだなって可笑しくなる、  それから、遼一のお父さんも買いに来てくれる。  ほんと、お世話になりっぱなしだ。  パン屋や実家を手放して、相続放棄すれば借金も無くなるんだって遼一のお父さんが教えてくれたけど、やっぱり両親が残してくれたパン屋さんは俺も続けたいって思ったからね。  遼一のお父さんに話したら「そうか…」ってニヤリと笑うのを隠しきれない様子で。次の日には大幅に減った借用書を見せられた。 「俺は今までの分息子に甘くしようと思う」って、借用書持ってうちに現れた。あの時遼一の顔といったら…勿体ないから誰にも教えてあげない。 「瑞希、何ニマニマしてんの?」 「ん?何でもない。今日もパン完売で嬉しいなと思って。遼一ほんとに毎週手伝ってくれるの大変じゃない?仕事に響いてない?」 「大丈夫だって。瑞希よりも体力あるからな」  遼一は、少しでも瑞希のサポートになればって、今までのヤクザさんのような仕事からは足を洗って、カフェでバリスタの勉強中だ。  そのうち、パンとコーヒーの美味しい店にしたいって言ってくれてる。俺中心じゃなく遼一のしたい仕事でいいんだよって伝えたら、「俺は瑞希が楽しそうな事が一番嬉しいから、瑞希がずっと楽しそうにしてくれるのが俺の夢になった」だってさ。 「ほら瑞希、片付けの手止まってるぞ。早く帰ろうぜ」 「うん」  早く帰った日は、ね。これ以上言わせるのは野暮ってものでしょ。最初は痛かったけど今は…ね。  さぁ、二人の家に帰ろうか。                end

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