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第12話 セックス談義
榊原は倉田の気持ちの良い箇所を覚えて、そこを重点的に攻め続けた。
「楓……もういい、出そうだ。手でイカせてくれ」
榊原は口を離すと、扱きながら床の上に倉田を押し倒し、キスをしにいった。
自分から舌を割りいれて強く吸い上げ、手の動きを早める。
さっき自分がそうされてたまらなく気持ちよかったのを倉田にも再現してあげたかった。
「う……くっ……楓っ……」
強く扱き上げると、倉田は榊原の身体をぎゅっと抱きしめながら勢いよく達した。
残らず搾り取るように二、三度扱くと、びくびくと腰のあたりが小さく跳ねる。
目を閉じて薄く唇を開き、気持ちよさそうに余韻に身体を震わせている倉田を愛しいと思った。
イク瞬間、自分の名前を呼んで抱きしめてくれたことも胸が熱くなった。
あの倉田が自分の前でこんなにも無防備な姿を晒してくれている。
同じことをすれば対等になれるのだ、ということも榊原には嬉しく思えた。
目をあけて身体を起こした倉田の胸に甘えるように榊原は抱きついた。
「気持ち良かった?」
そんなことを聞くのはヤボだと思うのだけれど、聞かずにいられない。
子供が親に褒めてもらいたいのと同じだな、と思う。
「ああ、すごく良かった。楓にこんなに追い詰められるとは思わなかったな」
倉田は榊原を抱きしめて頭をなでながら、小さな声でありがとうな、と言って優しくキスを落とした。
並んで湯船につかりながら、キスをしたり触れ合ったりするだけでも、たまらなく胸が苦しくなってくる。
ちょっとでも触れていたい。
最初のようなぎこちなさや照れはもうなくなっていて、そうしているのが自然だというようにお互いの身体に触れ合い、榊原はこの幸せな時間がずっと続いて欲しいと願っていた。
倉田は突っ込むだけがセックスではないと言ったが、本当にそうだな、と思う。
男同士の場合、これもセックスの形なんだと十分に満足感があった。
村井とのアレは事故みたいなもんで、セックスじゃない。
倉田はそう教えてくれたのではないか。
暴漢に襲われて、顔を殴られるか、腕を刺されるか、後ろに突っ込まれるか、ケガをした場所の違いだけでアレは単なる暴力だったと今は思える。
榊原はもう自分の気持ちに気づいていた。
俺はこの男が好きなのだ。
それもかつて誰にも感じたことのない程激しく魅かれている。
「なあ楓。男同士の恋愛っていうのはさ。セックスをしても子供が出来るわけじゃないし、結婚することもできない。相手にしてやれることがはなから普通の恋愛より少ないんだ」
「そうだね……」
「でも、好きになると相手になにかしてやりたい、と思うのが普通だろ? セックスもそうだし、それ以外でも相手がして欲しいと思うことはなんでもしてやりたくなる。叶えてやれることなら」
倉田の言わんとしていることはよくわかるような気がする。
榊原だってさっき、倉田には何でもして気持ちよくなってもらいたいと心から思ったのだ。
「だから、大事なことはして欲しいことは素直に口に出すことだと俺は思うんだよな。そうしたら相手にもそれが正しく伝わって、した方もされた方も幸せになれる。男同士のセックスは純粋に二人で楽しむためだけのもんなんだよな」
そう言えばさっき倉田が、俺はそこが気持ちいいと正直に口に出した時に、榊原は嬉しくて舞い上がるような気持ちになった。
俺も今度からもっと正直に伝えればいいんだ、と榊原は倉田の言いたいことを受け止めた。
「のぼせそうだな。出るか」
風呂から上がるとお互いに拭きあったり、明らかに今までより関係が進展したような甘い空気にドキドキする。
「楓、泊まっていくか?」
榊原がちょっと迷っていると、倉田はまだビニールに包まれた新品の下着と、洗濯されたパジャマを差し出した。
「明日このまま出勤するのなら、シャツぐらい貸すぞ。少し大きいかもしれないが」
倉田がそう言ったのが決め手になった。
シャツを借りれば、それを返すことがまたここへ来る口実になる。
倉田のシャツを借りて着るなんてまるで恋人同士みたいだ、と胸が躍った。
それだけで一日幸せな気分でいられそうだ。
「一緒に寝るか」
前は隣の部屋で寝ていた倉田は、隣から布団を運んできた。
一緒に寝る、と言ってもシングルベッドとその下に敷かれた布団で、別々に寝るつもりのようだ。
いつの間にそう決まっていたのかわからないが、榊原がベッドで倉田が布団、ということになっている。
本当は倉田のベッドなのにな、と思いながら榊原は横になった。
さっきまで風呂で密着していたのを思い出すと、ベッドと布団の距離さえ遠く感じる。
「俺……やっぱりそっちに行っていい?」
「布団のほうがいいのか?」
「そうじゃなくて……一緒がいい」
素直になる、と決めたのだ。恥ずかしい気持ちを抑えて言ってみる。
倉田はふっと笑うと、布団の端をもちあげて、ここに来いというようにぽんぽんと自分の隣をたたく。
布団に入ると、榊原は甘えるように倉田の腕の中に潜り込み、抱きついた。
やっと安心するような幸せな気持ちに包まれる。
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