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第18話 初級編

「あの……村井先生は」 「ああ、どっか地方にでも飛ばされただろうな。大学病院の方にも手を回したから、もう大学関係の病院には二度と戻って来れないはずだ」 「そうですか……」 「楓をあんな目に合わせたんだから、それでも足りないぐらいだ。楓、もう無茶するんじゃないぞ。注文が足りない時は俺のところへ来い。それでも足りなければ知ってる医者を紹介してやる」    倉田はデスクから数件の病院名と電話番号の書かれたメモを取り出し、榊原に渡した。   「そこに書いてある病院には電話をしておいたから、いつでも行けばいい。俺の名前を出せば話が通じるようにしてあるから」 「先生……俺……」    涙があふれてきて、榊原は何も言えなかった。   「泣くな、お前の泣き顔を見るためにやったんじゃないぞ。それと、俺はお前にもうひとつ確認しておきたいことがある」    榊原は涙をぬぐって、倉田の顔を見た。  この上何を俺に確認したいと言うんだろう。   「お前のメールに書いてあったが……俺のことを好きだったと過去形で。そうなのか? 俺のことはお前にとってもう過去なのか? 俺のことも忘れてしまいたいと思っているのか?」 「違う! そんなこと……あるわけない」    倉田はゆっくりと立ち上がり、榊原の頭に手を置いた。   「じゃあ、ちゃんと聞かせてくれないか。今のお前の本当の気持ちを」 「俺、先生が好きです。そばにいたいんです。たとえ仕事だけでもいいからって、そう思って来たんです」 「じゃあ好きなだけそばにいろ。もう逃げるな。これ以上俺に心配させないでくれ」 「いいの……?」    榊原が思わず立ち上がり、倉田の目を不安そうにのぞきこむと、倉田は微笑んで榊原を胸に抱き寄せた。   「俺はお前が医者だろうがMRだろうがそんなことはどうでもいいんだ。どうでもいいから聞かなかったんだし、聞かなかった俺も悪い。だからもう気にするな。俺のそばにいてくれ」    倉田は榊原の顎に手をかけて上を向かせると、触れるだけの優しいキスを落とした。   「楓。俺もお前が好きだ」 「本当?」 「ああ、お前の妄想で五回は抜いたな」    ぎょっとして榊原が目を見開くと、倉田はニヤっと笑った。   「今日は帰さないぞ、楓」 ◇ 「ああっ……せんせ……」 「セックスの最中に先生と呼ぶな。萎える」 「で、でもっ……」 「稜、だ。恋人になるんだろう?」 「りょ……せんせ……ひっ、あうっ」 「今度言ったらお仕置きだ」  大きく引き抜いて突き刺すように奥まで挿れられて、榊原は悲鳴をあげる。  水を得た魚のように、薄く笑みを浮かべながら、倉田が急所を狙い撃ちしてくる。    前は優しかったのに……  やっぱりこっちが本性だったか、と榊原は激しいセックスに翻弄されていた。  でも、嬉しい。  本気で求められている気がするから。 「あっ、イクっ……ああっ」 「ダメだ。前を触るな」 「ど、どして……や、あ、あっ」  イきたい……  こすられているあたりから、下半身にゾクゾクするような快感が広がって、榊原は身悶えしている。  尻の奥や腰のあたりが、ありえないぐらい気持ちいい。  ぎゅうぎゅう締め付けると、倉田の固いものが出入りする感触がたまらない。 「も、やっ、ダメっ、りょ、稜っ」 「名前呼んだな。ご褒美にイかせてやる」 「ひ、あああっ……」  気持ち、いい……  なんだこれ……  びくん、と大きくのけぞった榊原は、身体をガクガクと震わせながら、快感の渦に飲み込まれる。  触れていない先端から、勢いよく精液が吹き出した。    倉田は満足そうな笑みを浮かべると、榊原の身体をひっくり返して、後ろからズブリと突き立てる。   「やっ……あああっ」 「こっちの方が奥まで気持ちいいだろ? ほらっ」 「あ、あ、またっ、イく……」  さらに激しく突き立てられながら、何度も絶頂の波がやってくる。  すごい……これが、倉田のセックス。  溺れそうだ。いや、溺れてもいい。  もっと溺れたい…… 「稜っ……気持ち、い、ああっ、ああん……」 「楓っ、俺もイくぞっ」  ズンっと奥まで貫かれて、身体の中で倉田が弾けるのを感じる。  ドクンドクンと脈を打つような熱い感覚。  とろけるような甘い絶頂がやってきて、気が遠くなる……   「突っ込むだけがセックスじゃないって言ってたクセに……」    その晩は倉田にさんざん喘がされ、何度もイかされて榊原は腰が立たなくなってしまった。  倉田は榊原を横抱きに抱えると、風呂場までつれていき、身体をすみずみまで洗ってやった。   「そんな悠長なことしてたら楓に逃げられてしまうからな。二度と俺から離れられないようにしっかり身体に教え込んでやる」    湯船の中で、絶対に離さないとばかりに倉田は榊原を膝の上に抱きかかえている。   「稜、ひょっとして……Sッ気ある?」 「外科医なんてのはたいていがSだ。痛いことをしたり泣き喚かれたりするのには慣れている」    不敵な笑みを浮かべて恐ろしいことをサラっと言うので、榊原は顔をしかめた。  倉田が言うと冗談には聞こえない。   「この間は優しくしてくれたのに」 「あの時は楓が初めてだったから手加減してたんだ。まあ初級編のレッスンその一だな」「じゃあ今日のは?」 「初級編その2だな」 「それでも初級なのか……」 「俺は一回しかイってないからな」    榊原はひょっとして俺は大変な相手を好きになってしまったのではないかと思い始めている。  毎回こんな調子ではとてもじゃないけれど体力が持たない。   「じゃあ、今度は先に一回吸い取ってやる」    榊原は今はおとなしくしている倉田のモノをぴんっと指で弾いた。   「それはいいな。先に一回抜いておけば、二回目は持続力抜群だぞ。なんなら今から試してみるか」    倉田がニヤリと笑って胸に手をはわせてきたので、榊原は地雷を踏んだと、あわてて逃げ出そうとする。   「お、俺、一生初級でいい……」 「そうか? そのうちに俺の方がさんざん楓に搾り取られて、もう勘弁してくれと懇願するようになるかもしれないぞ?」    そんな訳ないだろ……と呆れたようにつぶやきながらも、一度でいいから倉田のそんな姿を見てみたいものだと榊原はちらっと想像してしまった。   「ねえ……セックス以外で俺に何かして欲しいことある?」 「そうだな……まあ、できるだけ長く俺のそばにいてくれ」 「なんだよ、できるだけって」    その言い方は聞き捨てならない、と榊原は口をとがらせる。  そこはずっと、と言うところではないか。   「お前が俺を捨てる時は女と結婚する時にしてくれ。結婚祝いぐらい贈ってやる」 「俺が稜を捨てるなんて……嫌だ。俺、稜と結婚する!」    榊原があまりに真顔で言ったので、倉田は思わず笑いながら榊原を抱きしめた。   「そうか、それならどこか男同士でも結婚できる外国の教会にでも行かないとな」 「うん、そうする……」    倉田は冗談で言っているのだろうが、榊原は真剣に自分のウェディングドレス姿を想像していた。  【その外科医は親切だった ~End~】  

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