39 / 347

3 : 7

 すぐに、桃枝の眉が寄せられる。 「そんなこと、俺は気にしない。そもそも周りになんて言われているかとか、俺が気付くわけないだろ」 「それって、周りの人とコミュニケーションが取れていないってことですよね? 自慢げに言うことではないと思いますけど?」  山吹は哀れむような目を向けた後、いつも通りの笑みを浮かべた。 「課長が来たいのなら、どうぞ今からでも。平日の夜ならボクたちが二人でいて、しかもボクの部屋に来たとしても『仕事について説教されました』とでも言えますし」 「それは……」 「どうします? 今から来ますか? それとも……」  ジッと、山吹は桃枝の目を見る。 「──また、一ヶ月後にしますか?」  これは、嫌味だ。桃枝にも分かるように、山吹はわざとらしいほどに責めている。  クリスマスプレゼントは、素直に嬉しい。今だって、包みへの抱擁を止められないほどに。  それでも、一ヶ月もの間放置されていた事実は変わらない。覆されもしないし、中和もされないのだ。これくらいの責めには理解を示してもらわないと、一ヶ月間の山吹が浮かばれないだろう。  まさか桃枝は、シャイを拗らせているのか。それとも年末の業務に忙殺され、山吹のことを忘れていたのかもしれない。どれもこれも憶測の域を出ないが、どれもこれも桃枝らしい理由だろう。  責められた桃枝が、眉間の皺をより深くする。 「……いや。今から、頼む」  言い訳を、しない。放置の理由も明かさない桃枝を、山吹は思わず睨みそうになる。  それでも、睨まない。冷たい態度は、桃枝が好む山吹ではないからだ。  どうしてそこまでして、桃枝が傷付かない態度を繰り返そうとするのか。その割には先ほどのように嫌味を言うのは、なぜなのかも。……今の山吹には、分かりそうになかった。 「それじゃあ、帰る準備をしましょうか」 「そうだな」 「でも、その前に……」 「なに──んっ」  つんと、桃枝の唇が一瞬だけ塞がれる。塞いだ犯人は、山吹の唇だ。 「不意打ちのプレゼントが嬉しかったので、ボクも不意打ちをプレゼントです。……嬉しいですか?」  ニコニコと、無邪気な笑み。唇を奪われた桃枝は目を丸くして、山吹を見上げていた。 「……誰かに、見られたらと。そう思うと、気が気じゃないな」 「つまんない回答ですねぇ~。萎えます」 「それは悪かったな」 「だけど、課長らしいです。とてもいいと思いますよ、そういうところ。……他の人にやったら、平手打ちの一発でも食らわされるかもしれませんが」 「お前以外とキスなんざしない」 「……。……あっ、そっか。そうでしたね」 「お前、また……」  好意を向けられていると、覚えているのに忘れている。  本気で桃枝からの好意や想いを失念していた山吹を見上げて、桃枝は深いため息を吐いた。 「まぁ、別にいいがな。そういうところも、言っちまえばお前らしい」 「なんだか嫌味っぽいですね」 「褒めてはいないからな。……貶してもいないが」  苦笑を返しつつ、山吹は帰り支度を進めるために一度、自分のデスクへと戻る。  ……当然、抱いたプレゼントを手放そうとしないまま。

ともだちにシェアしよう!