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強請れば、桃枝はなんだって与えてくれる。それは山吹にとっては悲しいことに、愛情と優しさからだ。
酷くされたい、傷つけられたい、粗雑に扱われたい。そうした願いは叶えてもらえずとも、山吹が真っ当な幸福感を得られることは叶えてくれる。
だから山吹は、桃枝が苦手で。……だから山吹は、桃枝を──。
「……ッ。山吹、もう、やめろ……ッ」
声に、今までと違う焦りが含まれている。頭上から降り注ぐ桃枝の声に、山吹はハッとした。
いつの間にか、桃枝の限界が近付いていたらしい。経験豊富で自信しかない山吹の口淫に、経験値が一桁レベルの桃枝は呆気なく翻弄されたようだ。
「出る、山吹……ッ。口を、離してくれ……ッ」
パワハラ上司だと陰口を叩かれ、同じ課の職員から恐れられている男。恐怖の対象でしかないこの男を、弄べる相手は自分だけ。
妙な、優越感。沸々と込み上げる感情を満更でもないと思う山吹が取った選択は、当然──。
「んっ、ふ、んぅっ」
「馬鹿ガキ、やめろ……っ、くッ!」
「ん、ッ!」
喉の奥まで、桃枝の逸物を咥え込む。そのまま逸物に強く吸い付き、喉を締める。
桃枝の体が、ビクリと震えた。だが、今までの震えとは違う。
熱が、山吹の喉を汚していく。むせ返りそうで、嘔吐反射をしてしまいそうだが、なんとか堪える。
頭上から聞こえる、吐息。満足そうで、色っぽい音だ。そんなものを聞いてしまえば、苦しさを堪えてみようと思えるのだから、山吹も大概愉快だろう。
吐精が終わり、桃枝は強張っていた体から力を抜く。それからすぐに我へ返り、桃枝は山吹の身を案じ始めた。
「お前、いつまで咥えて……! 馬鹿か、お前はッ。早く口から出せ!」
「んっ。……ふふっ。全部、飲んじゃいました」
「の、ッ! ……おっ、お前なぁ……ッ」
うっとりとしたような瞳で、山吹は桃枝を見上げる。官能的な表情と声に、桃枝は怒る気力を失わざるを得ない。
もとはと言えば、射精を堪えられなかった自分の落ち度が原因だと思ったのだろう。静止を聞かなかった山吹が悪いとはきっと、桃枝は思っていない。
自己嫌悪に陥っているであろう桃枝を見上げて、山吹は慰めの言葉をかける。
「課長にナカ出しされたのが気持ち良すぎて、ボクも射精しちゃいました……っ」
「はっ?」
「うぅ~、パンツの中が変な感じですぅ~」
「……本気の本気で、マジでイッたのか?」
「──見ますか?」
「──だっ、だだっ、駄目だッ、見せるなッ!」
ただ、精神を乱すだけの結果に終わったが。
桃枝はすぐに自身の衣類を整えた後、勢いよく山吹から顔を背け、あまつさえキツく目まで閉じ始めた。
「課長? どうして目を閉じているんですか?」
「寝室ッ! あっちの部屋に替えの下着が干してあるだろッ! きッ、着替えてこいッ!」
「それって、黒色のパンツですか? それとも、紺色ですか?」
「どっちでもいいから早くッ!」
「──もしかして、ボクが『ドアの形が変わって閉められない』って言ったから、目の前で着替えてほしい感じですかね?」
「──見ねぇから早く着替えろッ!」
まぶたがさらに強く、閉じられた。眉間にはさらに深い皺まで寄せられていて、むしろ可哀想に思えてくる。
「じゃあ、着替えてきますね。……課長は一応ボクのカレシなので、覗いてもいいですよ?」
「おまッ、あッ、煽るなッ!」
「あっ! 今っ、まぶたが震えましたねっ? 素直な課長、とてもいいと思いますっ!」
「あぁそうかよありがとなお前もいい男だよッ!」
「ありがとうございまーすっ」
立ち上がり、山吹は寝室へと向かう。
いっそ、不意打ちでキスでもしてやろうか。一瞬だけそんな考えがよぎるも、きっと怒鳴られて終わりだろう。寸でのところで、山吹はイタズラを自制した。
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