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3.5章【百里を行く者は九十を半ばとす】 1
年末年始。
仕事は暦を無視して連休となり、おおよその社会人が帰省や旅行に勤しむ時期だろう。例にもれず、桃枝も絶賛帰省中だ。
そんな中、山吹はと言うと……。
「──ヒマの極みすぎる……」
強盗と戦ったのではと危惧されるような荒れた部屋の中で、一人。床の上でなにをするでもなく、虚無を纏いながら寝転がっていた。
山吹にとって帰るべき実家は、ここ。寝ても覚めても毎日が帰省だ。わざわざ年末年始休みを駆使して行うものではない。
時間を合わせて遊ぶ健全な友人は、ゼロ。山吹が日常的にしていた【遊び】とは、そういうことだけ。……桃枝とお試し交際を始めてからは、一度もしていないが。
さほど広くもないアパートの部屋を大掃除したところで、時間は有り余る。傷や凹みを除くが、山吹の部屋は決して汚いわけではない。趣味らしい趣味を持っていない山吹は、日常的に家事をしているのだ。手間がかかる大きな掃除を除けば、やるべきことはあまりない。
そうすると、できることと言えば作り置きおかずを用意するくらいではあるが……なにせ、一人暮らし。冷蔵庫の空きスペースにも限界はある。
「ん~。……ヒマだなぁ」
前述したとおり無趣味な山吹がたどり着く結末は、とどのつまり【詰み】だった。冷たい床に寝転がるくらいしか、できることはない。
放り投げていたスマホを、寝転がったまま掴む。起き上がろうとしない省エネな姿は、なんともだらしなかった。桃枝が見たら、いったいどう思うだろう。
「『だらしないお前もカワイイな』とか言いそう」
脳内再生、余裕。勝手に想像し、山吹は思わずクスクスと笑ってしまう。
それにしても、困った。桃枝と仮交際中の身である山吹は、意外なことに不貞を働いていない。つまり、こうした空き時間にできることがなにもないのだ。
空き時間にできることがイコールでセックスしかないというのも、これいかに。山吹はスイスイと指先でスマホを触りつつ、時間を浪費する。
「課長、帰省からいつ帰ってくるんだろう……」
毎日の連絡は、変わらず続行。変わったことと言えば挨拶だけではなく、ちょっとした文章もつくようになったくらい。桃枝はなんとも純粋で、なんとも素直だ。
だが、それでも足りていない部分がある。今しがた山吹が呟いた通り、桃枝は帰省を終えて帰ってくる日を山吹に告げていないのだ。
桃枝からのメッセージを読み返しても、やはりどこにも書かれてはいない。口頭で告げられた覚えもないのだから、やはりなにに関しても【詰み】だ。
「外にでも出ようかな。目的とか、なにもないけど」
こうして家にいたところで、やることはない。思いつく限りのことはやり尽くしたのだ。
山吹は起き上がり、早速、身支度を始めようとする。
……したの、だが。
「ん? 誰だろ?」
メッセージの通知が、ひとつ。スマホから鼓膜に届いた音に従い、山吹はもう一度スマホを眺める。
諦めも懲りもしないセフレたちからの、お誘いか。送信相手によっては無視をしようと考えつつ、メッセージの送信者を確認する。
すると、そこにあった名前は予想外なようで、予想通り。
「……えっ? なにこれ、本気で言ってる?」
桃枝からの、突発的すぎるメッセージだった。
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