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 山吹はペットを飼った経験はないが、不思議と桃枝よりは上手に動物と接せられる自信があった。  少しだけ得意げになった山吹は、いつものアドバイスモードに頭を切り替え、桃枝を見つめる。 「でも、犬って愛嬌があってカワイイじゃないですか。せっかくですし、メッセージアプリのアイコンにでもしたらどうです?」 「アイコン……」  桃枝はお察しの通り、自分で画像を設定できるものはことごとく設定していなかった。メッセージのやり取りをするアプリはおろか、スマホのホーム画面にも画像は設定されていない。どちらも、初期設定のままだ。  山吹からのアドバイスは、基本的になんでも受け入れる。そうした性質を持ってしまっている桃枝だからか、どうやら本気で悩んでくれたらしい。眉をより強く寄せた桃枝を見て、山吹は笑みを浮かべてしまう。  しかし実は、山吹もそういったものは手を施さないタイプだ。山吹のアイコンも、ホーム画面も……桃枝と同じく、初期設定。いったいどの口が、と。桃枝からの返答はそこに尽きるはずだ。  いつ気付くかとワクワクしながら、山吹は桃枝からのツッコミを待つ。  だが、返ってきた言葉は予想外で。 「……山吹。唐突で悪いんだが、お前の写真を撮ってもいいか?」 「ホントに唐突ですね。フツーにイヤですけど、動機はなんですか?」 「可愛いと言えばお前だろ」 「えぇ~、真顔じゃないですか。怖いですよ、課長?」  褒められて悪い気はしないが、さすがに個人情報を他人のスマホに保存したがる趣味はない。山吹はもう一度キッパリと断り、話題を打ち切りとする。 「ところで。お前はこの休み、なにしてたんだ?」  すると意外なことに、今度は桃枝が話題を振ってきた。  思い返せば、メッセージでやり取りはしていたものの……確かにこの年末年始に、山吹は『自分が今、なにをしているか』と教えていなかったのだ。  桃枝からは実家にいる犬の写真が送られてくるほどだったのに、気が回らなかった。それらしいメッセージのやり取りをしたことがない山吹にとっては、クリスマスプレゼントと同じくらい盲点だったのだ。  だが仮に、山吹がそこまで気を回せたとして……。 「特に、面白みのあることはしていませんよ。大掃除をして、買い物をして、健全な寝正月をしていたくらいですので」 「意外だな。無趣味なのか?」 「えぇ、シュミはないです。さすがのボクも、自分のつまらなさを痛感しちゃいましたね」  茶を飲みつつ、山吹はこの連休を頭の中で振り返る。  自分はいったい、なにをしていたか。考えて、考えて、思い返して……。 「……あっ。無料で読める少女マンガを読みましたね。あまり共感はできませんでしたが」  思い出したのは、結局のところつまらない自分自身だけ。  それでも桃枝にとっては驚きだったのか、意外なことに【少女漫画】というワードに食いついた。 「少女漫画? なんでまた」 「そういう【恋愛を主題にした作品】に触れたら、もっと分かると思ったんですよ。課長の気持ちとか、周りが思うフツーとかが」  ほんの少しだけ、胸を張りたい。思わず『勤勉でしょう?』と、ドヤ顔を浮かべていただろう。  だが、今しがた山吹が言った通り、成果はあまりなかった。少女漫画には【恋愛】に関するときめきや常識が詰め込まれているのかと思ったが、山吹は終始難しい顔をしていたくらいだ。  特に、壁ドン。あれは恐ろしい。されたら最後、幼少の山吹ならば竦み上がっただろう。根拠は、父親との生活だ。 「いきなりキスをされるとか、ただの痴漢じゃないですか。あんなのはナンセンスですよね、まったくもう。……まぁ、ボクとしては『課長にもこのくらいの強引さがあればなぁ』とか思いましたけど」  そこまで話してようやく、山吹は自分の年末年始を上手に思い出せた。思わず饒舌になってしまうくらいには、発見のある日々だったかもしれないと。 「へぇ?」  桃枝の相槌が、思いの外、心地良くて。山吹は自分と桃枝のコップに茶を注ぎながら、続きを話すことにした。

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