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まったりと、時間が過ぎていく。
「部屋の掃除をしながら『課長から貰ったマフラーをどこに飾ろうかな』って考えたり、SNSに上がっている写真を見ていると『課長のご実家はどんなところなのかな』って考えたり、さっきまでだって『課長はご実家からいつ帰ってくるのかな』って考えたり……。そんな感じの、特に生産性もない休暇でしたね」
生産性のなさなら、今も同等だ。
それでも、すぐ近くに人がいる。相手が桃枝であるのならば、山吹にとってこの時間には【意味】がある気がした。
「この部屋って、テレビがないでしょう? ご飯を食べていると『課長とお喋りしながらご飯が食べたいな』って考えちゃって──あっ、そうです。ボク、今度行ってみたい居酒屋があるんですよ。えっと、確か名前は……」
山吹はスマホを探し、すぐに検索を始める。
……始めた、のだが。
「……」
途中から、桃枝がなにも言わなくなっていた。
自分が黙ったことでようやく桃枝の無言に気付いた山吹は、スマホから顔を上げる。……すると、すぐに桃枝と目が合ってしまった。
「課長? どうかしましたか? ボクのこと、ジーッと見つめて」
「い、いや。その、なんだ」
またしても、歯切れが悪い。今度はいったいなんだろう。胡乱気に、桃枝を見つめる。
そうされて、観念でもしたのだろう。桃枝はついに、山吹から視線を外した。
「──お前、休みの間中ずっと……俺のことを、考えていたんだな、って」
「──はいっ?」
そんなわけがない。山吹は咄嗟に、桃枝の発言を否定しようとした。
だが、自分の発言と年末年始の実体験を思い返す。
そして……。
「──あ、あれっ? あれっ、えっと、えっ?」
指摘をされて、熟考して。ようやく、山吹はハッキリと自覚した。
──確かに自分は、無意識のうちに桃枝のことばかり考えていた、と。
山吹よりも先に、桃枝が気付いた。どこまでも無意識だった自分の行動に、山吹は言い表せないほどの羞恥心を抱く。
「そっ、それは……! ちっ、違いますっ! そもそもっ、課長がボクに『寂しい思いはさせない』って言ったくせに何度も何度も放置するから悪いんですよっ! こんな連休は滅多にないのに課長は実家に帰って今までと変わらずにボクを放っておいたじゃないですかっ! 課長のウソ吐き!」
「なんだよ、実家に連れて行けば良かったのか?」
「そういう話じゃないですよ! このヘンタイ! ショタコン!」
「なんだその謂れのない冤罪は」
恥ずかしい、恥ずかしい。なんだ、この感情は。山吹は珍しく声を荒げつつ、テーブルをバンバンと叩き始める。
今はただ、山吹の中に桃枝しかいないから。桃枝以外の人間と深い関わりを築いておらず、また、体だけの浅い関わりも保留しているだけ。つまり、山吹の頭に登場できる基準を満たしている相手が【たまたま】桃枝しかいなかっただけだ。
文字として起こしてしまえば、山吹の思考はそれだけ。それなのに、たったそれだけの事実に対して、桃枝はと言うと……。
「そうか。お前の年末年始は、そういう感じだったんだな」
「~っ!」
職場では絶対に見せない微笑みを、惜しげもなく晒して。
どこまでも、満足そうに。桃枝は、薄く微笑んでいた。
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