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手渡された、現金。封筒やポチ袋に入れられていないそれは、まさしく【裸】だ。
「お前、まだ十代だからな。ヤッパリ欲しいよな、お年玉」
「えっ、いえ、ボクは別に、そういうつもりじゃ……」
「あぁそうだな、悪かったよ、察せなくて。こういうのは確かに言いづらいよな。直接『金をくれ』って言ってるようなもんだし、お前が言っていた通り『はしたない』と思って気が引けるのも分かるぞ」
「ホントに、そんなつもりじゃなくて……」
このままでは、本気でお年玉が渡されてしまう。山吹は受け取った札束を、慌てて桃枝へ突き返す。
「こっ、困りますっ! こんな大金渡されてもホントに困りますし、そもそもボクが言っていた『課長の』ってこういう意味じゃないですっ!」
「は? だけどお前、俺が裸でいいか訊いたら頷いただろ。俺のことは気にすんな。とりあえず、貰えるもんは貰っとけ」
「──父さんにもお年玉なんて貰ったことないのにっ!」
「──お前は機動戦士の操縦者か」
なんとか桃枝へ札束を返すことに成功した山吹は、ガックリと肩を落とした。
「なんですか、お年玉って……。怖いです、その文化。恐ろしいです、おぞましいです。なんで対価もナシにお金が貰えるんですか? 意味不明すぎます、バカなんですか、正気ですか?」
「いや、俺に日本の浸透された文化について問われてもな……」
「──課長の分からず屋!」
「──俺が悪いのかっ?」
山吹は再度、桃枝と向き直る。少し拗ねた顔も桃枝からすると魅力的なのだが、今回に限っては素の表情だ。作戦でもなければ狙いもない。
「課長。せっかく新年早々こうして会ったのですから、なにかしましょうよ」
「『なにか』ってなんだよ。えらく抽象的じゃねぇか」
「そうですね、課長はとても鈍くてイヤになるほど鈍感な鈍いオブ鈍いですからね、ハッキリ言いますよ。不健全にイチャイチャしましょう?」
「おっ、お前……ッ! 傷付けるか喜ばせるかどっちかにしろ……ッ!」
ジッと見つめると、桃枝がおかしな狼狽を始めた。相変わらず、山吹に迫られると動揺してしまうらしい。年が明けても山吹への好意は変わらずの様子だ。
これこそが、山吹の想定していた反応。慌てふためく桃枝を見ると、山吹の胸がスッとする。
もっと、乱れさせたい。山吹は距離を詰めて、手を伸ばし、桃枝の体に触れた。
「このまま、セックス。……シちゃいますか?」
「ッ! お前は……今年も変わらず、ドスケベだな……ッ」
「勃起している課長だって相当でしょう?」
「これは、せっ、生理現象だ……ッ」
股間を撫でれば、温かさが伝わってくる。思春期の男を相手にしているようで、不思議な心地だ。
それでも、気分は乗ってきた。山吹は目を閉じる。
「課長。……今年、初めてのキス。課長から、してください」
「……ッ」
なぜ大金はすんなりと渡せて、キスには迷いを見せるのか。山吹は目を開けてから、眉を寄せた。
「ボクとキスをするくらいなら、金を払って逃げた方が楽ですか?」
「馬鹿が、そんなわけないだろ」
「じゃあどうしてキスしてくれないんですか? したくないってことじゃないんですか?」
「そんな、わけ……ッ」
心の中で、笑う山吹がいる。
やはり、桃枝との時間は楽しい。一人きりの部屋よりも、断然。山吹は今度こそわざとらしく拗ねながら、そんなことを再認識した。
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