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明らかな、動揺。気持ちが良くなるほど痛快な反応を示す桃枝を見上げて、山吹は吹き出しそうになる。
だが、いけない。今はもっと、ムードを作らなくては。
「中の服、課長に見てもらいたいんです。……イヤ、ですか?」
パーカーのファスナーに指先で触れながら、山吹は眉尻を下げる。
あえて『駄目』ではなく『嫌』という表現を用いた。桃枝の優しさに、付け入るために。
桃枝に、愛する恋人の希望を『嫌だ』と言えるわけがない。桃枝はいつか損をしてしまいそうなほど、山吹に甘いのだ。
……そして、それと同じくらい。
「どっ、どういう、服、なんだ……っ?」
桃枝は、欲望に正直な男でもあった。
淡泊な印象を纏い、性欲とは隔絶していますと言いたげな言動を、桃枝は普段から山吹に取っている。
だが、山吹は知っていた。……桃枝が、意外にもむっつりスケベな男だということを。
そして山吹は、知っていたのかもしれない。
「カワイイ服ですよ? この服、課長に見せたくて年始休みの時に買っておいたんです」
「おっ、俺にっ?」
「はいっ。……一応、課長はボクのカレシ、ですから」
桃枝はどうしようもないほど、山吹にゾッコンなのだということを。
あと、もう一押し。即座に、山吹はモジモジとその場で恥じらってみせる。
「ボクが選んだ、課長専用のカワイイ姿。……見て、くれますか?」
不必要な助詞は付いていたが、山吹が自ら桃枝を『彼氏』と形容した。極めつけに、可愛らしく恥じらいながらのおねだり。
ここから導き出される答えは、ひとつ。
「……っ。……ファスナー。下ろす、ぞ」
「はぁ~いっ」
桃枝の手を、動かす。山吹の思惑通りの結果だ。
そっと、桃枝の指は山吹が着ているパーカーのファスナーに触れる。まるで、壊れ物を扱っているかのような手つきだ。
しばしの、逡巡。桃枝は『本当にファスナーを下ろしていいのか』と、悩んでいる。
だが、山吹が熱っぽい瞳で桃枝を見上げているのだ。桃枝の理性が溶けるのは、早くて当然だろう。
ジッ、と。ファスナーが、噛む音。桃枝はゆっくりと、山吹が着ているパーカーのファスナーを下ろして……。
「……ッ! おッ、おまッ! なッ、なにッ、なんて恰好して……ッ!」
すぐに、ファスナーから手を離した。
山吹から、距離を取る。僅かだが確実に離れた桃枝を見上げて、山吹はクスリと笑う。
「課長、こういうの好きかなぁ~って。むっつりさんなのは知っていますから」
山吹が、パーカーの下に隠していた服。それは、桃枝が喜びそうな【衣装】だ。
──ピンク色の、あざとすぎるナース服。……いわゆる【コスプレ衣装】というものだった。
「お前っ、なに言って……ッ」
惚れた相手から『むっつり』と言われているが、否定をし切れない。つまり、山吹の読みと作戦はどちらも大正解で大成功らしい。
その証拠に……。
「ふふっ。課長って、ホントに素直で分かり易い人ですよね」
「はっ? なにっ、な、なんでそうなるんだよ……っ!」
「だって、ずーっとボクが着てるコスプレ衣装ばっかり見ているじゃないですか。……好きですか、ナース服?」
「ッ!」
狼狽し、動揺から頬だって赤らめているくせに。
桃枝の視線は、山吹の上半身に釘付けだった。
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