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 シャワーを浴び、汗を流す。  確かに疲労感はあるが、言ってしまえば山吹はセックスに慣れている。こうした倦怠感や疲労は、むしろ山吹にとってはどこか心地良かった。  頭や体を洗い終えた後、山吹は桃枝から渡された服を身に纏う。  ……纏おうと、したのだが。 「あれっ? んっ。……まぁ、いっか」  山吹は一人で納得し、桃枝が待つリビングへと向かった。  どうやら桃枝は、読書をしながら山吹を待っていたらしい。気難しい顔には相変わらず、眉が寄っている。  普段通りの桃枝に安堵しつつ、山吹はトコトコと早歩き気味な足取りで桃枝へ駆け寄った。 「お風呂、ありがとうございました」 「ん? あぁ、上がったのか」  本になにかを挟むこともなく閉じた桃枝は、すぐに顔を上げる。  その瞬間──。 「どうだ、無事に──おッ、お前ッ! なッ、なんて恰好してんだよッ!」  本日だけで二度目の、装いに対する鋭いツッコミ。就寝直前とは思えないテンションに、山吹もビックリしてしまった。  指摘された、山吹の恰好。……渡されたスウェットを上に着たのみで、脚にはなにも纏っていない状態。  惜しげもなく晒されている生脚に視線を奪われつつ、桃枝は山吹の下半身について物申し始めた。 「ズボンも渡しただろ! なんだその恰好は、嫌がらせか!」 「それもありますけど」 「あるのかよ!」 「サイズが合わなくて、ずり落ちちゃんですよ。どうせ後は寝るだけなら、穿かなくてもいいかなぁ~、と」 「お前ッ、おっ、お前なぁ……ッ」  渋々穿いたとしても、寝ている間に脱げてしまうだろう。睡眠は十分にとりたい山吹としては、サイズの合わないズボンのせいで寝苦しい思いをしたくないのだ。  山吹の主張に納得したのか、はたまた諦めたのか。桃枝は盛大にため息を吐きつつ、山吹から顔を背けた。 「まぁ、いい。……お前、ベッドを使え。客人をソファやら床やらに寝かせるつもりはねぇ」 「いえいえ、それはご遠慮します。いくら射精の勢いが素晴らしかったとしても、課長は病人と言うか、病み上がりですので。課長がベッドを使ってください」 「射精云々は関係ねぇだろ。いいから、お前がベッドを使え」 「イヤです。課長がベッドを使ってくれないのなら、ボクは外で寝ます」 「なんでだよ。お前こそベッドで寝ねぇなら、俺が外で寝るぞ」  珍しく、会話が平行線を辿った堂々巡りだ。  だが、いくら少々傲慢気質な山吹でも家主兼病み上がりの男をソファで寝かせるつもりはない。なかなか薄情な男だと自負はしているが、外道にまで成り果てたつもりはないのだ。  しかし、桃枝も同じ気持ちなのだろう。客人兼恋人をソファで寝かせたくないらしい。  どちらも、相手をベッドで寝かせたい。大きくて、ふかふかで、上等なあのベッドに……。 「──あっ! じゃあ一緒に寝ましょうかっ!」 「──ゴホッ!」  まさに名案。山吹はポンと手を叩き、それはそれは得意気に提案した。  すると、返ってきたのは咳き込む音。山吹はギョッとし、すぐに桃枝の背をさすった。 「課長っ! ヤッパリ、まだ体調は万全じゃなかったんですね? ムリをさせてしまってスミマセン、大丈夫ですかっ?」 「今のはちげぇよ……ッ! お前のせいだろうが……ッ!」 「ボク? ちょっとなにを言っているのか分かりませんが、元気ってことですかね? じゃあ、早速一緒に寝ましょうかっ」 「──ゴホッ!」 「──ヤッパリ風邪じゃないですかっ!」  激しく、むせている。桃枝の背をさすりつつ、山吹は何度も同衾を提案したのであった。

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