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 なんて、ツイていない日だろう。山吹は管理課のスケジュールをパソコンで確認しながら、ため息を飲み込んだ。  定時まで待っていれば桃枝に会えるかと思ったのだが、今日はタイミングが合わない日らしい。  どうやら今日は、夜に飲み会が開催されるようだ。対象は、この会社の課長以上の役職員らしい。当然、管理課長の桃枝も対象だ。  このままでは、桃枝に会えない。終業時間を迎えた事務所で一人、山吹は両手で頬杖をついていた。 「課長、今日は事務所に来ないのかな……」  カラッ、と。引き出しを開ける。 「お礼も、言えてないのに……」  包みを開けず、ましてや触れることもせず。山吹は引き出しの中に鎮座しているプレゼントを見つめて、ポツポツとぼやく。 「課長……。会いたい、なぁ……」  桃枝が聞けば、確実に浮かれるワード。しかしこの言葉には、桃枝が求めるような感情──恋心は、含まれていない。  桃枝に、プレゼントの礼を伝えたい。そしてその後、山吹は桃枝に……。 「んん~……っ!」  ペタリと、デスクに突っ伏す。山吹がぼやこうと、俯こうと、嘆こうと。事務所には山吹しかいないのだから、ツッコミもフォローも入らなかった。  ──入らない、はずだったのに。 「──山吹か? お前、事務所の電気もほとんど消して、一人でなにしてるんだよ」  パチッ、と。山吹の視界が、必要以上に明るくなった。  自分のデスク周りにだけ電気を点けていた山吹はすぐに、顔を上げる。そのまま声がした方──事務所の入り口に、目を向けた。 「……課長?」 「なんだよ」 「ホントに、課長ですか?」 「なんだその質問は。どう見ても俺だろうが」  前髪を上げ、鋭い目つきと硬化した表情。オマケに、他者を突き放すような冷たい言葉。……間違いない。山吹の視界に映る男は、桃枝白菊だ。 「あと、相手の質問に答えてから質問しろ。俺は今、お前に『なにをしているんだ』と訊いたはずだぞ」  鞄を手に、桃枝は自分のデスクへと向かう。そのまま、今日の会議で使っただろう資料を整頓し始めた。 「残業か? そこまで忙しい時期でもねぇだろ」 「残業では、ないです。でも、ここにいないとダメかなって……」 「ここを誰かとの待ち合わせ場所に使うんじゃねぇよ」  今日は、どことなく機嫌が悪そうに見える。会議に疲れたのか、それともこの後の飲み会が不本意なのか、あるいは両方か……。 「まさか、俺のことを待ってたのか?」  普段の桃枝ならば、絶対に言わないセリフ。手を動かし、目線も送らずに。桃枝は山吹に、そう訊ねた。  さすがに桃枝自身も、どうかと思ったのだろう。すぐに、否定の言葉を紡ごうとして──。 「なんてな。そんなわけ──」 「──分かっているのに訊くなんて、酷いです」  バサッと、手にしていた書類を床に落としてしまった。 「課長を、待っていました。……どうしても今日、会いたかったんです」  山吹は引き出しの中から、桃枝が忍ばせたプレゼントを取り出す。それから自身の鞄を抱いて、桃枝のデスクへと近付いた。 「課長、すみません。今、ちょっとだけいいですか?」  向けられた桃枝の目は、驚いたような色を浮かべている。  その理由を考える余裕もないまま、手を伸ばせば届く距離まで……山吹は、桃枝に近付いた。

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