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ベッドをポンポンと叩き、必死にSOSを伝えられて良かった。桃枝の顔が離れてようやく呼吸をしながら、山吹は酸素に感謝する。
「悪かった、配慮が足りなかった。もうしないから、赦し──」
「イヤ、です。まだ、したいです」
今さらながらに、桃枝は気付く。
「課長、あの。今の、窒息しちゃいそうなキスが気持ち良かったので、その。……エッチしたく、なっちゃいました……っ」
山吹が依然として、袖をつまんだままだということに。
ビクッと、桃枝は過剰な反応を示す。勇気を出して誘ったというのに、酷い反応だ。山吹はぷくっと、頬を膨らませた。
「かっ、可愛い顔をしても無駄だぞ。さすがに、それは駄目だ。お前、まだ治ったわけじゃねぇんだから」
「キスして、ボクをその気にさせたのに……遊び、だったんですか?」
「なんでそうなるんだよ。俺はいつだって真剣にお前が好きだっつの」
「じゃあ、分かるように愛してください」
すると、山吹の手が袖から離れたではないか。桃枝は無意識のうちに安堵し、無意識ながらも落胆しかける。
しかし、桃枝から手を放した山吹は体を捻り、なにかを探すかのように手を伸ばし始めた。
「山吹? なに、してるんだ?」
「これを、取りたくて」
「……はッ? お前、それ……ッ」
山吹がいそいそと取り出したのは、桃枝にとって驚愕と困惑の種にしかならない道具。……コンドームとローションだった。
「課長と、この部屋でエッチしたくて……用意して、ました」
「……ッ」
「それでも……ダメ、ですか?」
微熱か、窒息しかけたキスのせいなのか。山吹は潤んだ瞳で、桃枝を見つめた。
こうなると、桃枝の中にいる天使と悪魔の戦いだ。意気地なしのヘタレだとしても、桃枝は男。しかも、経験済みだ。山吹の提案は、あまりにも魅力的に映っているだろう。
山吹から見ても分かるほど大きな葛藤をすること、数秒後。桃枝は、山吹に手を伸ばして……。
「駄目、だ。体を、安静にさせろ……ッ」
山吹の手からそっと、道具を奪い取った。
桃枝、理性の勝利。おそらく──どう見ても、僅差だった様子だが。
「治ったら、お前が満足するまで抱いてやるから。だから今日は、勘弁してくれ。……いや、違うな。我慢、してくれ」
「約束、ですよ? 絶対絶対、ボクを満足させてくださいね?」
「あ、いやっ。今のは言葉の綾、っつぅか……」
「課長はウソがお嫌いなんですよね?」
「……善処、する……ッ」
どこに逃げても、行き着く先は山吹の思惑通り。見えない袋小路へと、桃枝は知らぬ間に閉じ込められていたらしい。
今は駄目でも、未来の約束ができた。空いてしまった手で、山吹は再度、桃枝の袖を引く。
「じゃあ、キスだけ。キスだけ、もう少し……」
「キスだけ、だからな。それ以上は絶対にしねぇぞ」
「はい。……んっ」
道具を床に置いた桃枝はすぐに、山吹の頬へと手を添えた。
しばらくキスをすると、唇が離れる。酸素を取り込む方法が今の山吹には口呼吸しかないと、分かってくれたからだ。
「も、っと……っ」
「あのな、山吹。俺はできた人間じゃねぇんだよ。夢中になると、お前を窒息させそうになる」
それほどまでに山吹とのキスへ熱中してくれているのなら、嬉しい話ではないか。山吹は不謹慎ながら、内心で小さく喜ぶ。
だが、それはそれ、これはこれというもので。まさかたかが体調不良でここまで欲望を抑制されるとは思っておらず、山吹は解決策を思案した。
「そう、ですね。……あっ。じゃあ、苦しくなったらベッドを──」
思いついた意思表示を、すぐさま提案しようとする。
だが、今日の桃枝は普段と少し違って……。
「──俺に抱き着け、山吹。苦しくなったら、爪でも立てればいい」
ただ、翻弄されるだけではない。山吹の内側にある柔らかい部分を、なぜか執拗に……しかし優しく、触ろうとした。
桃枝からの提案を受けた山吹は、堪らず……。
「えっ。そ、れは……っ」
ビクリと、体を震わせてしまった。
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