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接近の許可を与えたのは、山吹自身。桃枝の真意も確認せずに頷いたのは、山吹自身だ。
「あっ、え。課長、待って……っ」
「可愛いお前が、可愛いモンを嬉しそうに抱いている。いいな、この構図。癒される」
「わっ」
山吹が抱き締めているシロごと、桃枝は山吹の体を抱き締めた。
すっぽりと桃枝の腕に収まった山吹は、異様な緊張感に心を支配されてしまう。
「山吹、こっちを向け」
「な、んで……っ?」
「『なんで』って。……キス、したいからだ。言わせるなよ、いちいち」
顎が、桃枝に掬われる。黒い手袋のひんやりとした感触に、山吹は体を小さく震わせた。
「やっ、ダメ……っ。シロに、見られちゃいます……っ」
「馬鹿、やめろ。興奮する」
「えっ? ……えっと、そのっ。それなら……エッチ、シます?」
「今日はもう遅いし、明日も仕事だ。真っ直ぐ帰る」
「そうですか。ザンネンで──んっ」
茶化し半分、本気半分。山吹の誘いを軽くいなした後、桃枝は抵抗の隙も与えずにキスを贈った。
「あっ。ん、ふ、ぅ……っ」
優しいキスに、山吹は吐息を漏らす。味なんかしないはずの唾液すら、甘く感じて……。山吹の胸はなぜか、徐々に鼓動を速め始めた。
どうして、こんなにも落ち着かないのか。胸が騒がしく、優しくされて逃げたいはずなのに、逃げたくないなんて。自分の感情が上手に制御できない山吹は結局、桃枝からのキスを甘んじて受け入れた。
やがて長く深い口付けは終わり、桃枝の顔が離れる。舌を絡めていた名残のように二人を透明の糸が繋いでいたが、それはすぐさまプツと途切れた。
「か、ちょぉ……っ」
「悪い。……強引、だったよな。不愉快だったか?」
「こ、困ります。いきなり、そんな。ボク、優しくされるのが苦手なのに……っ」
「そうだったな。悪かったよ」
と言いながら、桃枝は山吹の頭を撫でている。山吹の主張が分かっていないのか、分かっている上で取っている行動なのか……。山吹は堪らず、頬をぷくっと膨らませた。
当然、そんな山吹を見ても桃枝は内心で『可愛いな』と思っているのだが。口にすると怒られる気がして、桃枝は閉口した。
逞しい体に抱き締められ、恋人のような甘いキスを贈られ、ホワイトデーのプレゼントまで貰って……。そこまで思い返し、山吹はハッとした。
気付いたのなら、即実行。山吹は桃枝を振り返り、真っ直ぐと瞳を向ける。
「あの、課長。少しだけ、ここでシロと待っていてくれますか?」
「一人──じゃなくて、このぬいぐるみと、か? 別にいいが、どうしたんだ?」
「まだヒミツです。だから、ちょっとだけ待っていてください」
山吹はシロを桃枝に託し、一度、寝室へと移動した。
扉が扉としての機能を果たしていないせいで、桃枝の位置から寝室は丸見えだ。だがなんとなく見てはいけない気がして、桃枝は寝室から視線を外した。
時間にして、おそらく十数分。ようやく、桃枝のもとに山吹は戻ってきた。
そして、すぐに。
「──今から、課長にナゾナゾを出しますね」
桃枝にとってその発言自体がナゾナゾなのではと思える発言を、山吹は真剣な表情で告げた。
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