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5.5 : 6

 瞳を数回、桃枝はパチパチと瞬かせる。 「ナゾナゾ? 随分と唐突だな」  想定できる答えだ。実に、桃枝らしい。  山吹は背後になにかを隠しているような立ち方をしながら、座る桃枝を見下ろした。 「先に言っておきますが、かなり難しいナゾナゾです。難易度マックスです」 「俺はそういうの、得意じゃねぇからな。悪いが、今回は不参加──」 「──このナゾナゾに見事正解しましたら、ボクからステキな景品が貰えます」 「──なんでも言え」  態度が、一変。心なしか、桃枝がふんぞり返っているようにも見える。素直な男だ。  山吹は桃枝の前にストンと腰を下ろし、相変わらず後ろになにかを隠しながら、難易度の高い【ナゾナゾ】を口にした。 「──では、ナゾナゾです。……いつも緋花のそばにいてくれて、緋花にたくさんの楽しい時間をくれて、これからもきっと緋花を楽しませてくれるステキな人は、いったい誰でしょうか?」 「──っ!」  そういう難しさか、と。言葉にはしなかったが、桃枝は思う。 「あー、その。……え、っと」  答えは、なんとなく分かる。しかし、他でもない桃枝がその【答え】を口にするのか。桃枝の表情は強張り、モゴモゴと口ごもり始めた。  すると、桃枝の態度をつぶさに観察していた山吹は途端に、シュンと落ち込み始める。 「分かりませんか?」  眉尻を下げて、まるで子犬のような目で見つめていて。悲しむ山吹を見て、桃枝は腹にグッと力を入れた。 「……ッ。う、自惚れ、だとしたらかなり恥ずいんだが、その。……俺、か?」  答えを紡ぐために、力を込めて。羞恥心を恋人の喜ぶ姿で塗り潰し、桃枝は【答え】を口にした。  すると、山吹は……。 「はい、正解です」  いつもの笑顔と違い、柔らかくて温かな笑顔を浮かべた。  普段の作り慣れているかのような笑みとは、なにかが違う。その可愛さに目を奪われた桃枝は、直視できるメンタルなんぞ持ち合わせていないくせに、視線を外せなかった。  笑顔に見惚れられているとは、露ほども思っていないのだろう。山吹はようやく、後ろに隠していた物を前に出そうとした。 「それでは、約束通り。ご褒美の景品を差し上げますね」 「あ、あぁ」  ずっとなにかを隠していたのは、明白。問題は【なにを隠していたのか】だ。 「『ご褒美』というのは、建前で。……ボクからの、気持ちです」  山吹の後ろから【景品】が出され、桃枝は喜び──。 「肩たたき券ですっ」 「肩たたき券」 「ホワイトデーのお返しですっ」 「ホワイトデーのお返し」  ……喜びよりも先に、驚愕に複雑さが練り込まれた妙な感情を抱いてしまった。  手作り感満載の、チケット。紙にはきちんと【肩たたき券】と明記されていて、可愛らしいイラストまでもが付属していた。 「だってまさか、課長がホワイトデーのお返しをくれるなんて思わなかったんですもん。咄嗟に用意できるものって、これくらいしかないじゃないですか」 「別にお前が気にする必要はねぇし、だとしても肩たたき券って……」 「むっ、なんですか、文句ですか? 好きな人からいただいた物なら、なんだって嬉しいんじゃないんですか?」  予想していた反応と、随分違ったのだろう。山吹はわざとらしく、頬を膨らませて拗ねてみせる。  そんな山吹を見て、桃枝は表情を強張らせた。 「……なにか、欲しい物を言え。なんでも買ってやる」 「いや、今はボクが渡す番で──……課長? どうして額に手を当てているんです?」 「お前の可愛さと尊さに目眩がした」 「えっ。カワイすぎて、ごめんなさい……?」 「どういたしまして……」  よくは分からないが、やはり大喜びだったらしい。気難しい顔をしたまま額を押さえている桃枝を見て、山吹は困惑しつつも安堵した。

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