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 桃枝の優しさに、甘えていいのだろうか。捨て切れない不安感に、山吹は言葉を紡ぐ。  なにか、ひとつでも肯定してくれれば。山吹が【いい子ではない】と桃枝に気付いてもらうなら、今がいい。きっと今日を越えてしまえば、山吹は桃枝から離れられなくなってしまうから。 「クリスマスは、いい子しかプレゼントを貰えないんです……っ。貰ったことがなかったボクは、生粋の悪い子なんですよ……っ?」 「それは【サンタから】って前提があるだろ。俺たちは互いにプレゼントを用意すればいい」 「バレンタインだって、直前に気付いたような男なんですよ……? ボクは、ダメな男です……っ」 「今年気付いたなら、来年はもっと早く気付くさ。それにバレンタインじゃなくたって、お前からチョコが貰えるなら俺はいつだって嬉しいんだぞ? わざわざイベントに固執しなくていいんだよ」 「課長から誕生日をお祝いしてもらいたかったくせに、ボクは課長の誕生日を知らないから『おめでとう』って言えないんです……っ。ボクは心底、イヤな男なんです……っ」 「俺に、祝われたかったのか? お前は本当に、素直じゃなくて面倒で、だけど可愛い奴だな。……俺の誕生日は、五月一日だ。良ければカレンダーにでも書いておいてくれ」 「──うわぁあんっ! なんで全部赦しちゃうんですかっ、ばかぁ~っ!」 「──『お前が好きだから』としか言いようがないな」  無論、桃枝は山吹の思い通りには動かない。いつものことだ。  流れで打ち明けてしまった山吹は、依然として涙を流したままポツポツと言葉を紡ぐ。今度は、桃枝が訊いてきたことへの答えを。 「ボク、ホントは課長に……ただ、ただ。『誕生日おめでとう』って、言ってもらいたかったんです。黒法師さんより、ボクを優先してほしかった。ボクじゃない人に、時間を使ってほしくなかった。……ギュッてして、頭を撫でてもらいたかった」  ぐしゅっと、情けなく顔が歪む。そんな山吹を見て、桃枝は目を丸くしていた。 「初めて、誕生日をお祝いしてもらえると思って……楽しみに、してたんです。プレゼントとかはなにも要らないから、ただ、ただ一緒にいて、たった一言でいいから『おめでとう』って言われたかったんです……っ」 「じゃあ、お前が俺に怒ったのは……俺が水蓮を車で送ったから、なのか?」  コクリと、山吹は頷く。悩むこともなく、素直に。 「でも、それは身勝手です。ボクは課長に、なにもあげられていないのに。ボクばっかり、課長から貰おうとしました。ボクばかり、課長から奪おうとしました。……ボクは、悪い男なんです」  するとついに、桃枝の手が山吹の頭から離れた。 「えっ。や、やだ……課長──」 「──なにを言ってるんだよ、お前は。俺はとっくに、お前から沢山のものを貰っただろ」  離れた手が──指が、山吹の目尻をそっと拭う。 「だから、俺はお前にお返しがしたい。つまり……お前が気負う必要なんて、初めからねぇんだよ」  そうされると、ますます涙が溢れてくるから。泣き続ける山吹の背を、桃枝はポンとあやし始めた。

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