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 洗面所から戻った山吹は先ず、どこに座ればいいのかと悩んでしまう。  オロオロと右往左往している山吹を不審に思いつつ、桃枝は「こっちに来ないのか?」と訊ねる。言われてようやく、山吹は桃枝のそばに座った。 「あの、課長。ボク、実は……シャワー、浴びました」 「そうみたいだな。いつも以上に、シャンプーの匂いがする」 「だから、あの。……約束、果たされたいです」  ピクリと、桃枝の体が震える。動揺したのだろう。  しかし今さら、拒否をする理由はない。気恥ずかしいからと言って、先延ばしにしている場合でもないだろう。 「メシはいいのか?」  今までとは違い、話題を逸らさない。隣に座った山吹を見て、桃枝は真剣に取り合ってくれた。 「ご飯より先に、課長が欲しいです」  こうして桃枝を誘うのは、なにも今日が初めてではない。そのはずなのに、山吹の頬は少しずつ赤らんでいく。 「ベッドに、行きませんか?」  顔を隠すように、山吹は立ち上がった。そのまま桃枝の手を掴み、開きっ放しの扉へと向かう。  桃枝は、抵抗しない。山吹に連れられるまま、寝室について行く。 「シャワーを浴びてくれたお前に対して、こう言うのもなんだが。……俺は水蓮を送ってから、自分の部屋に戻ってないんだ。だから、こっちの準備は不十分と言うか……汗臭いかも、しれないぞ」 「前にも言ったじゃないですか。『汗の臭いって、コーフンしませんか?』って」 「確かに言っていたな」  すり、と。桃枝が、山吹の首筋に鼻を寄せる。 「お前はいつも、いい匂いがするな」 「んっ。くすぐったいですよ、課長」  首筋にある唇から、桃枝がそっと舌を出す。生温かい感触が首に触れると、山吹はすぐに体を震わせた。 「なぁ、山吹。今日も、上は脱がさない方がいいか?」  震える山吹の素肌に触れようと、桃枝が山吹の服に手を差し込む。山吹は顔を赤らめたまま、桃枝を見つめた。 「課長になら、いいです。課長がイヤじゃないなら、ボクもイヤじゃないですから」 「そうか。なら、脱がす」 「迷いなく言い切りましたね」 「俺にだって『惚れた相手の裸が見たい』っつぅ健全な欲求はある」 「健全? そう、ですか」  上に着ていた服が、あっさりと脱がされる。セフレにすら見せなかった上半身があっという間に晒され、山吹の顔はさらに赤くなる。 「煽情的だな。赤くなった顔も可愛いぞ」 「そういう感想は要らないです」 「なら別の言い方にする。好きだ、山吹」 「それは……ありがとう、ございます」  もう何度も告げられた言葉だが、今日からは受け取り方が変わってしまう。山吹は赤い顔を隠せないまま、桃枝からの言葉とキスを受け取った。 「じゃあ、課長も脱いでください。ボクも、課長の裸が見たいです」 「いざ言われてみると、面映ゆいな」 「あっ、待ってください。自分で脱がないでください、ボクが脱がしたいんです」 「男らしいな」  桃枝のネクタイを解き、山吹がシャツのボタンも外していく。  なぜだか、異様に緊張する。おそらく互いに、そう思っていることだろう。  それでも二人は、手を止めない。互いの服を少しずつ脱がしていきながら、時にキスを交わす。それがまた照れくさいと思いながらも、やはり二人は行為を止めようとはしなかった。

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