206 / 465

7 : 30 *

 裸になった山吹は膝を擦り合わせる。 「後ろ、キレイにはしました。でも、あまり慣らしてはいなくて。だから、えっと……」 「なんだよ。気になるだろ」 「つまり、ですね。課長に、後ろを、その。……慣らしてほしい、です」 「っ! ……あ、あぁ、そういうことか。分かった、俺がやる」  山吹はローションボトルを用意し、桃枝に手渡す。こういった行為に未だ慣れない桃枝は緊張しつつも、山吹からボトルを受け取った。  はめていた手袋を、桃枝が外す。桃枝の無骨な素手を見るだけで、山吹の胸は高鳴ってしまう。  おそらく山吹は、桃枝の動きを凝視しすぎていたのだろう。桃枝が、眉間の皺をそっと深くした。 「そんなにジロジロ見るな。やりづらい」 「なんだか、エッチに見えて……」 「まぁ、ローションなんて持っていればそう見えるだろうな。それに今から、そういうことをするわけだし」  早く、挿れてほしい。桃枝の返事をほとんど聞き流してしまった山吹は、未だに桃枝の手を凝視している。 「課長、早く……っ」 「少し待て。まだ、ローションが冷たい」 「冷たくてもいいから、早く指……挿れてほしい、です」 「っ。だ、駄目だ。お前を驚かせたくない」  全て、山吹が教えたことだ。覚えていてくれたことに感動すると同時に、桃枝の優しさにも心を震わせてしまう。またしても、胸が高鳴ってしまうほどに。  手のひらに垂らしたローションを眺めていた桃枝が、不意に顔を上げる。 「……よし、もういいだろ。山吹、横になれ」 「は、い」  素直にベッドへ倒れた山吹を見て、桃枝は表情を強張らせた。 「全裸でベッドに横たわっているだけなのに、官能的だな。恐怖すら感じる」 「恥ずかしくなる感想は、やめてくだ──んっ」  つぷ、と。桃枝の指が、山吹の後孔に差し込まれる。待ち望んでいた圧迫感に、山吹は小さく身じろぐ。 「動くな、山吹。うっかり傷をつけたくなんかねぇ」 「課長になら、乱暴にされてもいいです」 「俺はもう二度と山吹を傷つけたくねぇし、大前提に加虐性愛者じゃないんでな。却下だ」 「んっ、ん、っ」  指の先が、奥深いところに触れている。山吹の指ではなかなか届かない部分に難なく届いてしまうなんて、桃枝のポテンシャルは恐ろしい。身を震わせながら、山吹はそんなことを考えた。  これからずっと、この男を山吹だけが独占できる。優越感とは違う感慨が、山吹の胸を締め付けた。 「指、増やすぞ。痛かったら言ってくれ。我慢はナシだ」 「はい、分かりました……」 「お前な、そんな目するなよ。俺の理性をぶち壊す気か?」  いったい、どんな目をしていたのだろう。潤み始めた視界では、桃枝の瞳に映る自分の顔がよく見えない。 「課長の指、気持ちいいです、っ。もっと奥、擦ってください……っ」  ただ分かるのは、猛烈に気持ちがいいということだけ。 「やだ、課長……っ。ボク、イッちゃう……っ」 「早いな──じゃ、なくて。あぁ、いいぞ。お前の好きなところを擦ってやる」 「本音が漏れて──ひっ、ん、ッ! だめっ、や、そこはっ。あっ、んッ!」  ビクリと、山吹の体が大きく震える。呆気なく絶頂を迎えさせられた山吹は、普段なら桃枝を睨むくらいしただろう。  だが、今日はそんな余裕がないらしい。 「か、ちょ……っ。早く、課長のペニス……ボクのナカに、挿れて……っ?」  桃枝が、欲しくて欲しくて堪らない。肉欲ではない欲望に突き動かされた山吹にはもう、理性らしい理性が残っていなかった。

ともだちにシェアしよう!