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 一人だけ、二度も達してしまった。息を切らしながら、山吹は羞恥心と満足感に包まれる。 「あ、ぶねぇ……っ。危うく、俺も出すところだった」  増した締め付けに眉を寄せた桃枝は、半泣き状態の山吹を見つめた。 「大人気なかったな、悪かった。だけどな、山吹。ちゃんと言葉にされないと、俺には分かんねぇんだよ。考えを言ってもいないのに相手を責めるなんて、お門違いだと思わないか?」 「はい、思います……っ。だから、悪い子な緋花に課長のペニスでお仕置きしてください……っ」 「いや別にそこまでは怒ってねぇんだが。……なんか俺、お前の変なスイッチを押しちまったか?」  意地悪は終わりらしい。残念だ。  だがつまり、次は甘やかしてくれるということ。どちらに転んでも、山吹としては嬉しい展開だ。  山吹の精液で汚れた手を拭きながら、桃枝はふと、山吹の上半身を見た。 「一応言っておくぞ、山吹。お前は隠したがっていたが、俺は気にしないからな。これを理由に、お前を嫌ったりもしない」 「えっ? いきなり、その……なんのこと、ですか?」 「胸の下の、これだよ」  火傷の痕を、桃枝の指先がなぞる。愛撫のような動きに、山吹の体は震えてしまった。  今の山吹は、どこかおかしいのかもしれない。桃枝の全てに、こんなにも感じてしまうなんて。  震えた山吹を見て、桃枝はほんの少しだけ的外れなことを考えたようだ。 「お前、本気で胸が性感帯なんだな」  乳首への愛撫を求められた記憶を思い出したのだろう。火傷の痕をなぞっていた桃枝の指先が、ツンと尖る胸の突起をなぞる。  後ろの締め付けを増させながら、山吹はソフトタッチな指遣いにとろけてしまいそうだった。 「セフレに『胸は見ないで』と言い続けていたら、なぜか『敏感すぎて恥じらっている』みたいな解釈をされてしまって。いろんな人が面白がって触るから、いつの間にか、その。……ホントに、一番の、性感帯に……っ」  言葉尻が、窄まっていく。胸で感じてしまうなんて、恥以外のなにものでもないからだ。  呆れられたら、どうしよう。火傷の痕は良くても、乳首で感じる男は嫌いかもしれない。恐る恐る、山吹は桃枝を見上げた。 「そうか。お前の胸は、他の奴らが開発したんだな」 「……課長?」  案の定、桃枝の表情は強張っている。山吹は咄嗟に、桃枝を繋ぎ留めようと手を伸ばして──。 「──残念だったな、ソイツらは。手塩にかけて育てた乳首が、突然現れた男のものになるなんて」 「──ひ、んッ!」  すぐに、シーツを握ってしまった。  桃枝は山吹の胸に顔を近付け、存在を主張している乳首を啄んだ。口での愛撫に感じてしまって仕方がない山吹は、それでも懸命に言葉を紡ぐ。 「あ、うっ。や、課長っ。怒って、ますか……っ?」 「昨日までの俺ならそうだったろうな。だが、今は優越感の方が強い。お前はこれからずっと、俺だけの男だからな」 「課長、だけの……っ? んっ、あ、っ! だめっ、噛まないで──あっ、んッ!」  乳首を優しく噛まれると、切なくなってしまう。それなのに反対側の胸を桃枝の指が撫でるから、どうにかなってしまいそうで。  弱い部分に与えられた快楽に、耐えられない。我慢できずに、山吹は体を震わせた。  そうすると桃枝が一度だけ息を呑んだのだが、そこを案じてあげられる余裕が山吹にはなかった。

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