222 / 465

7.5 : 6

 桃枝と山吹、二人きりの二次会は山吹が暮らすアパートの一室で行われた。  コンビニで酒やつまみを買い、いざ飲み直し。二人はのんびりと、そして穏やかな時間を共有し始めた。  ……はずだったのだが。 「──まったく、課長ったら。少し部下にちやほやされただけでデレデレニヤニヤしちゃって、恥ずかしいったらないですよ、まったくもう」  山吹の様子が、おかしい。それはもう、明らかに。 「……や、山吹?」  帰りの運転も残っている桃枝は、一次会と同様にソフトドリンク。緑茶を飲みながら、まるでくだを巻き始めたかのようにも見受けられる山吹の様子を眺めた。  名前を呼ばれた山吹が、顔を上げる。その頬は真っ赤になっていて、理由は当然ながら、アルコールだった。 「いいですか? お二人が帰り際に課長を誘ったのは、ただの社交辞令ですからね? 別に、課長のことが好きってわけじゃないんです。会話の流れ的にたまたま、結局はボクのおこぼれで誘っていただけただけなんですからね? それなのに全員分のお支払いをしちゃって、課長ったら見栄っ張りなんですから」  そもそも初めに桃枝を誘ったのは山吹なのだが。……と言うツッコミは野暮だと感じたのか、桃枝は閉口した。  しかし、山吹は止まらない。甘い缶チューハイを握りながら、ペラペラと言葉を紡ぎ続ける。 「まさか、カッコいいところを見せたかったんですか? ムダですよ、ムーダ! 二人とも、課長には気を遣いっぱなしだったんです。あんなの、猫を被っているだけなんですよ。あの二人は普段、もっともっと騒々しい方たちなんですからね? だから気に入ってもムダですー。あれはホントの姿じゃないから騙されているだけですー。それなのに、嬉しそうにニコニコしちゃって……ホンット、課長ってザンネンな人ですよね。哀れですよ、あーわーれっ」 「……なぁ、山吹?」 「だいたい、なんですかさっきの会話は。好きな人の話題で『いない』って言えば良かったのに、バカ正直に『いる』って答えちゃって。ボクとの関係がバレたらどうするつもりですか。明日から課長は【ヤリチンでビッチな奴が好きなヘンタイショタコン認定】されるところだったんですよ? ボクに感謝していただきたいくらいです。それなのに、なにも知らない二人から応援されてまたニヤニヤして……ふんっ! 課長のバカ、ばーかっ!」 「おい、山吹?」 「黒法師さんの次は部下ですかっ! 課長は懐いてくれる人なら誰でもいいんですねっ? バカっ、浮気者っ、お金持ちっ!」 「最後のはなにか違うだろ。……じゃなくて。なぁ、山吹」 「そもそも、誰のおかげでパワハラ矯正できていると思ってるんですか。課長がボク以外の人とそこそこ楽しくお喋りできているのは、全部誰のおかげですかって話ですよ。まったく、情けないったらないですね。それなのにお二人と解散するとなったら名残惜しそうにして。ボクが誘わなかったらあのまま、お二人と二次会ですか? ふーん? ふぅーんっ? まぁ別に、課長が掲げていらっしゃるボクへの愛がその程度であるのでしたらボクはなにも──」 「──なぁ山吹。それは嫉妬か?」  ようやく、桃枝の言葉が綺麗に挟まった時。ピタリと、山吹が動きを止めた。  数秒の、間。山吹はパチパチとその大きな瞳を瞬かせて……。 「はっ、はぁっ? そんなんじゃないです違いますっ! バカじゃないですかバッカじゃないですかっ!」  アルコールとは別の意味で、ボボッと赤面したのであった。

ともだちにシェアしよう!