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 自分は、桃枝に甘やかされるのが好き。桃枝から大事にされて、分かり易い愛情を向けられるのが好きなのだ。  どうしてこんな簡単なことに、気付けなかったのだろう。……否。気付いていたと言うのに、どうして認められなかったのだろうか。  なんて、なんて。山吹はなんて、幼かったのだろう。 「山吹? 今、なにを考えていた?」  桃枝が、眉を寄せている。眉尻を下げつつ困った様子ではあるものの、山吹は咄嗟に桃枝へ笑みを向けた。 「すみません、ボーッとしてしまって。少し、今までの自分と……これからの自分について、考えていました」 「そうか」  桃枝の手が、頬に触れる。帰ってきてからはずっと手袋を外していた、素手の状態で。 「これからの、自分たち。……では、ないんだな」  ムッと表情を強張らせる桃枝を見て『可愛い』と。堪らず、山吹は思ってしまう。 「もう。そんなところで拗ねないでくださいよ」 「別に拗ねてはいないんだが」  真っ直ぐと見つめてくる眼差しから目を逸らさず、山吹は桃枝を見つめた。 「まだ、お前の人生にはお前以外の誰かが入る余地はないのか?」  もしかすると『拗ねている』と言うより、桃枝は『不安がっている』のだろうか。そう気付き、山吹は笑みを浮かべる。 「──もう、ムリですよ。課長を抜いての人生なんて、考えられません」  桃枝のことが、どれだけ大切なのか。山吹にとって桃枝がどれだけ必要不可欠な存在かを伝えて、ふと。 「──そう言えば課長は、どうしてコンドームを付ける練習をしたんですか?」 「──なんで今その話を持ち出すんだッ?」  桃枝にとって、山吹はずっとずっと大切な存在だった。しかし、そう考えると妙なのだ。  きっと桃枝が浮かべていた初期の想定に【山吹とのセックス】は組み込まれていなかったはず。厳密に言うのなら、組み込まれていたとしても付き合って一週間で為される予定ではなかったはずだ。  それなのに桃枝は、準備をしていた。それは、なぜなのか。急激に色を変えた話題の理由を「気になったので」と答えた後、山吹は続く桃枝からの返事を待つ。  絶対に、桃枝が答えるまで山吹は諦めない。そんな確信があるのか、桃枝は山吹から顔を背けつつ、モゴモゴと聞き取りづらい形で言葉を紡ぐ。 「お前が、言ったからだろ。『浮気する』って。だから、お前と付き合うなら【そういう行為】も念頭に置くべきだと、思ったんだよ」 「つまり、課長はボクに求められたらすぐに対応できるように準備をしてくれていた……ということですか?」 「まぁ、そうなるな。さすがに、まさかたった一週間で体を重ねるとは思っていなかったがな」 「それは、なんと申しますか……すみません?」  なんて、いい人なのだろう。それでいて、一生懸命だ。  山吹に浮気をされたくなくて、健気に予防線を張っていた。桃枝のいじらしさに、山吹はつい甘えたくなってしまう。 「──ねぇ、課長。ボク……寝室に、行きたいです。ベッドの上で、課長に愛を囁かれたいです」  山吹が抱く桃枝への気持ちが、桃枝にとっていい意味で変わったとしても。山吹の中で沢山のものが変わったとしても、変わらないものだってあった。  山吹に強請られた桃枝は、すぐに顔を赤くしたのだが。かと言って、断る素振りは見せなかった。

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