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 文字通り痛いほどに愛を伝えられた後、山吹は桃枝と一緒にコンビニ弁当を食べた。  それから雑談を交わし、穏やかな時間を過ごして。ふと、山吹は思いつく。 「ずっと座っているのも、退屈でしょうか。もう少し楽な姿勢を取ってもいいですよ?」 「退屈ってことはねぇし、俺はかなり楽な姿勢を取っているつもりだぞ」 「そうですか? でも、うぅん……」  確かに胡坐ではあるが、それでも少し気になる。なぜなら今日は、山吹の我が儘で部屋に連れ込んだのだ。  きっと今頃、通常の桃枝は横になるなりソファに深く沈むなりしてリラックスしていただろう。生憎と【帰宅】という目的がある桃枝をベッドに誘うのは申し訳ない気がして提案できず、ソファもないのだから代案も口にできない。  それでも、桃枝を休ませたい。山吹は悩み、そして……ポンと、手を叩いた。 「──そうだっ! 課長、ボクが膝枕しましょうかっ!」 「──ひッ、膝枕ッ?」  姿勢を正し始めた山吹を見て、桃枝が狼狽する。  しかし、山吹は『名案だ』という自画自賛で忙しい。自分の提案に自信しかないので、桃枝からの返事を確信しているくらいだ。 「今日は課長をお誘いするつもりで部屋を掃除していたので、床に寝転がってもへっちゃらですよ。ベッドだと眠くなってしまったら起こすのが申し訳ないですし、ボク個人としては絶対にエッチしたくなっちゃうのでお連れしてもメーワクをかけちゃうと分かっているので寝室にお通しはできませんが、膝枕なら提供できます!」 「お前かなり俺のことを考えてくれてんだな。……じゃなくて!」 「もしかして課長、膝枕がお嫌いですか?」 「いやっ、そのッ。……え、えっ、えんッ、遠慮ッ、する……ッ!」  だからこそ、山吹はショックを受けた。まさか、桃枝から『膝枕に応じる』以外の返事がくるとは思っていなかったのだから。  途端に、山吹は泣きそうな顔をする。 「ボクの膝じゃ、ご不満ですか……」 「──もったいなさすぎるくらいだっつの!」  しかし、勝者は山吹だ。桃枝は怒鳴った後で、すぐに山吹の膝へと倒れ込んだのだから。  パァッと嬉しそうに笑う山吹を見上げて、桃枝は呻いた。 「くッ。お前は本当に、狡い男だな……」 「頭、ナデナデしましょうか?」 「……頼む」 「頼まれましたーっ」  なでり、なでり。山吹の手が、桃枝の頭を優しく撫でる。山吹に撫でられ始めた途端、ガチガチに緊張していた桃枝がさらに体を強張らせた。  だがふと、桃枝はあることに気付く。 「前から薄々思ってはいたんだが……お前、人との距離が近くないか?」 「そうですか?」 「そうだろ。誰と話すときも、距離が近い」  言われてみると、そうなのかもしれない。ヤリチンでビッチだった学生時代に培った処世術の延長線と、言えなくもないが。 「やめろよ、そういうの。相手から変な気を起こされるかもしれねぇだろ、胸糞悪い」  なぜか桃枝が、不機嫌になっている。おそらく、嫉妬だろう。  膝枕をされている状態で振る話題でもない気がするが、桃枝が不満を抱いているのなら解消すべきだ。桃枝の頭を撫でながら、山吹は微笑んだ。 「ボクが自分から距離を詰めたのは、両親相手とセックスを除けば課長だけですよ」  せっかくだ、揶揄おう。山吹は小悪魔のような笑みを浮かべて、桃枝の頬を撫でた。 「課長は、なってくれないんですか? ボクに対して【変な気】に」  ここで、山吹は気付くべきだったのだ。今の自分が、どういう状況に居るのかと。  そっと、桃枝が手を伸ばす。まるで山吹の真似をするように、桃枝は山吹の頬を撫でて……。 「──なっていいのか?」  まさかの、返り討ち。山吹は『絶賛、自分の方が桃枝に対する耐性が低いのだ』という現状を思い出す。  ボボッと勢いよく赤面した山吹は、オロオロと辺りを見回す。 「どっ、どうしましょうっ。えっと、えっと……っ! ロ、ローションとゴムを取りに行けばいいのでしょうかっ!」 「冗談だからやめろ」  恋愛経験、ゼロ。困ったときには、即セックス。慌てふためく山吹を宥めた後、桃枝はどことなく呆れた様子で笑っていた。

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