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昼休憩の時間になり、管理課の事務所から職員が去った後。
「──ホンットに作りすぎただけです! 別に両想いに浮かれてるとか、そういうパッパラパーな気持ちはないですからねっ!」
「──そうか、お前は浮かれてるのか」
朝のメッセージから今なおツンデレ属性を持続中な相手──山吹が、顔を真っ赤にしながら弁当箱を差し出してくれた。
墓穴を掘った山吹は「うっ!」と呻きながら、半歩下がる。
「課長、変わりましたね。前まではボクからアプローチを受けたら狼狽えていましたのに……!」
「最近はお前の方が慌てふためいてるからだろうな。よく言うだろ、自分より慌てている奴を見ると逆に落ち着くって。そういうことだ」
「うぐぐ……っ」
桃枝は好意を自覚してからそこそこ経つが、山吹はまだ一ヶ月も経っていない。今までは桃枝ばかりが狼狽えっぱなしだったのだから、むしろ今くらいは山吹の動揺を楽しませてほしいくらいだ。
「弁当、ありがとな。俺とのことで浮かれてくれてるんなら、俺の嬉しさは倍増だ」
「そ、それはっ。……な、なにより、ですけど……っ」
赤くなったかと思えば突然、山吹の表情が暗くなっていった。
「ボクは少し──だいぶ、浮かれすぎですよね。分かっているのに、どうしていいのか分からなくて……。スミマセン、みっともなくて」
どうやら、自分の言動に自己嫌悪を始めてしまったらしい。
桃枝の言葉には当然ながら、山吹を責めるような意図は含まれていない。だがしかし、桃枝の態度はどうやら山吹の妙なマイナス思考を働かせてしまったようだ。
シュンと、山吹が落ち込んでいる。桃枝の対応がそうさせてしまったのかもしれない。すぐに、桃枝はフォローを入れた。
「誰がいつ『みっともない』なんて言った?」
……なんとも、フォローらしからぬ圧ではあったが。
これではいけない。桃枝は不得意ながらも懸命に言葉を続ける。
「浮かれてくれよ、存分に。俺だってこう見えて、かなり浮かれてる。……っつぅか、あれだ。俺はお前と付き合えることになった去年の十一月からずっと浮かれっぱなしだぞ。だから、今のお前がみっともないなら俺なんて目も当てられないだろ。とにかく、そういうことだ」
これは、どうだろう。お互いの恥を言葉にして晒し合っただけな気もするが、それで山吹は笑顔になってくれるだろうか。恐る恐る、桃枝は顔を上げる。
「それも、そうかもしれませんね。……ふふっ。課長、ボクに対して必死過ぎますよ。別にボク、泣いているわけでもないですのに」
どうやら、桃枝のフォローは成就したらしい。
どことなく困った様子にも見えるが、山吹は笑っている。その様子に安堵し、桃枝はそっと肩の力を抜いた。
「──しかし、あれだな。やっぱり、俺のせいでいっぱいいっぱいになっている山吹を見ると妙な嬉しさがあるのも事実だ。だからこれからも、分かり易く狼狽えてくれ。ツンデレなお前も貴重で、かなり好ましいからな」
「──なんでこう課長って、最後までカッコ良くいてくれないんですか?」
ゆえに、失敗する。桃枝はどう足掻いても【残念な男】という枠組みから外れることはできないらしい。
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