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勃起したままの逸物は、寂しそうに震えている。山吹自身もまた、悲し気に眉を寄せていた。
恋人が『駄目』と言ったのだ。望み通りに動いて、なにが悪い。山吹の頭を撫でる桃枝の主張は、この一本だ。
無論、桃枝がそういう男だと山吹は分かっている。ゆえに、山吹は慌てて言葉を紡いだ。
「ボクが『ダメ』って言ったらダメですけど、でもダメじゃないんです」
「ほう」
「ボクが『ヤダ』って言ったらイヤなんですけど、でもイヤじゃないんです」
「なるほど」
突然始まった主張を聴き、桃枝は腕を組む。頷く桃枝を見た山吹は、パッと表情を華やがせながら「分かってくれたんですねっ?」と喜んでいた。
山吹の笑顔を見て『可愛いな』と思いながら、桃枝は一度だけ頷いて……。
「──悪い。全然分からん」
「──ええぇっ!」
自らの力で、恋人の笑顔を曇らせてしまった。
山吹は、ガガンとショックを受けている。なぜだ。むしろ、今の説明で『なるほど、完全に理解した』と言える人間は果たしてどのくらいいるのか。
「分かったような顔していたじゃないですかっ!」
「素の表情だ」
「うっ、確かに……!」
「そう即座に納得されるのも、複雑な気分だな」
山吹は膝を擦り合わせて、モジモジと落ち着きなく身じろいでいる。
「お前の言い分は全く分からないが、とにかく『嫌よ嫌よも好きのうち』ってことだろ。臨機応変に対応する」
桃枝が持てる誠意を総動員し、山吹への気持ちを主張してみた。……が、山吹は眉を寄せている。
言うまでもなく、ムッとした顔の山吹も愛おしい。しかし、今は山吹に『可愛い』と言う場面ではない。
「そんな不服そうな顔をするなよ。別にお前の言い分を突っぱねてるんじゃなくて、俺は『お前の言い分が理解できるよう努力をする』っつってんだぞ」
笑顔のひとつでも向けてほしいものだ、と。言外に、桃枝はそう主張した
依然として不服そうに唇を尖らせている山吹は、口を開いて桃枝を責め始める。
「──じゃあ、その『努力』を示してください」
……なんてことは、なくて。
「──ボクが今、どうされたいのか。分かって、くれますか?」
顔を赤くしながら、山吹はそろそろと脚を開いた。
濡れている逸物がまるで、泣いているように見えなくもない。山吹は、羞恥からだろうか。うっすらと、涙目だ。
懇願するように、求めるように。桃枝を見つめてくる山吹の目に、しっかりと眼差しを返す。
「正直に言うと、お前がどう思っているかの確信はない。……が」
言葉を区切ると同時に、ベッドが『ギッ』と軋んだ。
「コンドームを渡してくれ、山吹。俺は今、お前に挿れたくて仕方ねぇ」
桃枝からの言葉を受けて、山吹の目が丸くなる。『キョトン』と言いたげだ。
真顔で、なにを言っているのだろう。山吹は今、そんなことを考えているのではないか。つまり、山吹の期待とは全く別のことを言ってしまったのかもしれない。すぐに桃枝は、幾ばくかの不安を抱いた。
……抱いた、のだが。
「──さすが、ボクの課長ですね。正解です」
山吹からの返事に、桃枝は抱えていた不安を一気に捨てた。
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