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ただ、逸物の先端を山吹の後孔に擦り付けているだけ。しかも、コンドーム越しだ。
それなのにまるで、既に挿入されたかのように……。
「課長の、大きい……っ。ドキドキ、しちゃいます」
山吹が、興奮したような顔をしている。どことなく呼吸も荒く、まるで発情中の獣じみていた。
正直、可愛い。猛烈に可愛くて、仕方がない。
……可愛い、のだが。
「こんなことを言いたかないが、お前はさ。……俺の体が、好きなのか?」
「か、らだ?」
続くはずの挿入に期待していた山吹が、瞳をパチパチと数回、瞬かせる。
勿論、山吹からの好意を否定するつもりはない。山吹が【桃枝白菊という男を好いている】と、分かっているつもりだ。
だが、しかし……言いようのない不安が、またしても桃枝を襲った。
……ならば、当然。
「──かっ、体、も。体もす、すっ。……好き、です。課長の体も、内面も好き、なんです。……い、いちいち言わせないでください、イジワル……っ」
その不安を払拭してくれるのは、やはり山吹だった。
好意を伝えるのにもまだ抵抗があるのか、山吹は真っ赤になっている。やはり、山吹は可愛い男だ。しみじみと、桃枝は思い知らされる。
「具体的には?」
「えっ? ぐ、具体的、にっ?」
「あぁ、そうだ。お前が教えてくれただろ。『人間は褒められたい生き物だ』って。『いいと思った点は伝えるべきだ』って」
「んん、あ、ぁあ……っ! やっ、だめっ、喋りながら奥までゆっくり挿れちゃ──やぁ、あ、っ!」
訊ねながら、擦り付けていた逸物を山吹の後孔へと挿入していく。念のためにとローションを使用したとは言え、それにしたってすんなりとした挿入た。
どうやら本気で、しかもかなり入念に【準備】をしてくれていたらしい。桃枝には『浴室で自慰行為に耽ったか』なんて訊いてきたくせに、自分はどうなのだ。思わず、そう言いたくなるほどに。
「ほら、緋花。ちゃんと具体的に俺を褒めてくれよ」
「はっ、んぅ……っ。白菊さん、乳首……乳首、触ってぇ……っ」
「……っ。あ、あぁ、分かった」
困った。『可愛い』以外の語彙が消失していく。桃枝は一度だけ言葉を詰まらせつつ、山吹の要望を叶えようと動き始める。
希望通り、乳首を指先で撫でてみた。すぐに、山吹の体は嬉しそうに震える。
「気持ちいい、です……っ。もっと、くにくにして……っ?」
「それは別に構わないんだが、俺の質問はどこに行ったんだ?」
「あっ、ん! 乳首、つねられたらぁ……気持ち良くて、頭真っ白になっちゃいます……っ」
「……ッ。そ、そうか」
駄目だ、可愛い。恋人へのトキメキに心臓を止めてしまいそうになりながら、桃枝は山吹の乳首をつねらずに、撫でる。
快感に支配されながらも、山吹は桃枝に答えようと思ったのだろう。まとまらない呼吸を必死に整えながら、山吹は桃枝を見つめて、口を開く。
「ち、乳首、を……『触って』と言ったら、すぐに触ってくれる優しいところが……す、好き、です」
「っ! ……そうか。こうされるのが好きなのか」
「ひ、っ、んっ」
まさか、本当に答えてくれるとは。しかも、桃枝の要望通りに【具体的】だ。
素直な言葉を告げてくれて嬉しくなった桃枝は、山吹の乳首を指先でピンと弾いた。
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