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 山吹とは対照的にどこか楽しそうな青梅は、コテンと小首を傾げた。 「ってか、随分と印象変わったな。なにその髪色? ハデすぎない? アンタ、確か事務職に就いてなかったっけ? なに、人間関係でトラブッた?」 「オマエには関係ない。……あと、学生の頃と比べて変わったのはオマエだって同じでしょ。耳が可哀想」 「マジ? アンタがオレに同情するとか、天変地異の前触れじゃね?」 「誰がいつオマエに同情したんだよ。オマエを育ててくれたご両親に同情したつもりなんだけど」  なかなか、青梅は去りそうにない。山吹はふいっと視線を外し、全身で『拒絶』のオーラを放ってみる。 「アンタ、この辺に住んでんの? 電車苦手だったし、乗って来たとは考え難いっつぅか……もしかして、誰か待ってる感じ?」  だが、効果はなかったようだ。  青梅はキョロキョロと辺りを見回し、山吹が待っていると思しき人物を探し始める。  青梅のわざとらしい動きにはツッコミを入れず、山吹はツンとした態度を示し続けた。 「ボク、さっきも『オマエには関係ない』って言ったはずなんだけど。いいから、早くどっか行ってよ」 「……アンタ、もしかして電車に乗った? 顔色、すっげぇ悪いけど」 「っ。……放っておいてよ、どっか行って」  腹立たしいことに、青梅はいつだって目敏い男だ。不愉快極まりないが、巧くかわせそうになかった。  仕方なく、山吹は青梅に視線を向ける。ここは素直に会話をし、早急に満足してもらった方がいいと踏んだからだ。 「オマエこそ、誰かと約束してたんじゃないの。サッサと合流したら?」 「や、ぜーんぜん。ちょっとブラついてただけー」 「サイアク……」 「そりゃ良かったな。今が最悪なら、後は良くなる一方ってことじゃん」  こうなると分かっていれば、休憩なんてせずにすぐさまスーパーへと向かったのに。自らの選択を悔やみながら、山吹は青梅を睨んだ。 「──言っておくけどボク、もう不特定多数の男女と寝るつもりはないから」  触れたくない話題だが、きっと青梅がしたいのはこの手の話題に決まっている。山吹は眉を寄せながら、青梅を睨み付けた。 「分かったなら、サッサとどっか行ってよ。ボクの顔色、悪く見えてるんでしょ? だったら空気読んでよ」 「まるでオレがアンタを抱くために声を掛けた、みたいな言い回しに聞こえなくもないけど……。まぁ、それはどうでもいっか」  ガリガリと後頭部を掻きつつ、青梅は山吹を見下ろす。 「っつぅか、なんじゃそりゃ。随分とお高く止まったじゃん? ワンナイト至上主義~みたいなアンタらしからぬ発言だけど、頭大丈夫? それとも、心境の変化でもあったわけ?」 「……まぁ、ちょっとね」 「はぁ? ナニソレ、ジョークにしては全然振るってないんじゃないの?」  すると、次の瞬間。 「──今さらなにカマトトぶってんだよ、クソビッチが」  青梅に、肩を掴まれた。なかなかに、強い握力で。 「別に要件はセックスじゃなかったけど、なんか面倒臭いからそれでもいいや。……あのさ、山吹。アンタはずっと、オレの性処理玩具でいたらいいんだっての。分かるっしょ、それくらい?」 「なに──」 「──アンタ、自分がどんな育ち方したのか忘れたわけ?」  なぜ、そんなことを青梅から言われなくてはならないのか。  ……たかが、高校時代のクラスメイトのくせに。山吹は肩を掴まれたまま、怯まずに青梅を睨み続けた。

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