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当然、二人の会話は近くにいる職員へ筒抜けだ。
「青梅君とブッキーって知り合いなの?」
こうした質問が飛んできたって、なんら不思議ではないほどに。
すぐに青梅はニコリと笑みを浮かべ、名前も知らない女性職員相手に返事をした。
「そっす、知り合いっす。高校の時に三年間同じクラスだったんですよ。……なっ、山吹っ?」
「消したい過去です」
「へーっ、そうなんだっ! なんだか仲良しだね~」
「「どこがですか?」」
声が揃い、互いの顔を思わず睨み合ってしまう。お互いが『仲良し』と思われるのは不服だと同調しているようだ。
しかし、知られてしまったのならば隠す必要もない。山吹はため息を吐いた後、隣に立つ青梅を睨み上げた。
「とにかく、オマエはもうどっか行ってよ。近くに居られてもメーワク」
「へぇ? オレが近くに居ると意識するんだ? 可愛いとこあるじゃん」
「オマエのポジティブってなんでそんなにムダな方向で光るの?」
「どこぞのネガティブ男よりはマシだと思うけど?」
やはり、青梅と話しているとロクな目に遭わない。
それでも負けるのは嫌で、山吹はさらに青梅へ噛みつこうと──。
「──お前たち、始業時間がとっくに過ぎてるって気付いてねぇのか。ペチャクチャ喋って耳障りなんだよ。迷惑だってことに気付け」
……したのだが、二人を引き裂く声に息を呑んだ。
桃枝が、青梅の後ろに立っている。その表情は語気と同様、不愉快気に歪められていた。
「青梅は先ず、こっちに来い。各課と事業所に俺と挨拶周りだ。行くぞ」
「あっ、そうなんですね。はーいっ、了解でーすっ」
「あと、山吹。青梅より入社してからの期間が長いって自覚があるんなら、私語くらい控えろ。それくらい、職業体験の学生だって分かることだろ」
「す、すみません……」
桃枝に睨まれて多少は怯んでいるだろうが、それでも青梅は恐怖を表に出していない。ヘラヘラと笑い、歩き出した桃枝について行く。
対する山吹は、去っていく桃枝の背を見送る。謝罪以外になにも言えず、普段から貼り付けている笑みも浮かべられなかった。
二人の関係性を訊ねた女性職員は、中でも一番ビクビクと怯えている。それでも、珍しく厳しい叱責を受けた山吹を心配し始めた。
「怖かったぁ~っ。……ブッキー、大丈夫? 今、桃枝課長に結構ガッツリ怒られて──……ブッキー?」
だが、女性職員の心配を他所に──。
「──課長、ボクのこと……見てて、くれたんだ……っ」
山吹の瞳は、キラキラと輝いていた。
思わず、ときめいてしまう。仕事中に注意をしてくれるなんて、山吹を気に掛けてくれていたなによりの証拠だ。不謹慎だとは重々承知しているものの、素直に嬉しい。
しかし当然、浮かれている場合ではない。山吹はフルフルと首を横に振り、気合いを入れる。
「大丈夫です! これから挽回します!」
「わぁ~っ。今まで見たことがないくらいやる気がみなぎってるねぇ~?」
よく分からないが、山吹は無事らしい。それだけ理解をした後、女性職員はパチパチと拍手を送った。
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