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さすがに、サラッと肯定されるのは予想外だったのだろう。黒法師の笑みが、驚きの表情に変わった。
「山吹君、彼氏おるよ?」
「知ってる」
「山吹君、君のことは大嫌いやと思うけど?」
「知ってる」
この男と山吹の関係性は謎だが、それでも青梅には分かることがある。
「きっと君が告白しても、あの子は気味悪がって振るやろね?」
この男は、山吹のことを──。
「──それは、違う。アイツは、そこまでの悪人にはなり切れないよ」
──なにひとつ、分かっていないのだと。
またしても、黒法師が驚いたように目を開く。なぜだかこの男が驚くと胸がスッとして、だからなのか青梅は、饒舌になってしまった。
「オレが告白したって、先ずアイツは信じない。だけど、最終的には伝わって……困惑して、戸惑って、悩むよ。その上でアイツは、凄く凄く申し訳なさそうにオレを振るんだ。……アイツはそういう、中途半端な奴なんだよ」
妙に、説得力がある。黒法師は目を丸くしたまま、雄弁に語る青梅を見つめた。
「それは、えらい理解度やね。予想外やったわ」
「全部、知ってるんだよ。アイツのことなら全部、知ってるつもりだったんだよ。なのに……っ」
酔いが回ったのか、それともこれこそがこの男の狙いだったのか。分からないまま、青梅は俯いた。
「──なんで、アイツの本心には気付いてあげられなかったんだろう……ッ」
咄嗟に、黒法師は気付く。俯いたこの青年は今、泣きそうな顔をしているのだろう、と。
これ以上揺さ振ると、この青年の感情は決壊するだろう。それは、黒法師にとっては楽しくない結末だ。黒法師は人間の涙以上に萎えるものを知らないのだから。
そうとは、分かっているのに──。
「──肩くらいなら、貸してあげてもええけど?」
なぜだか無性に、感情を壊してあげたくなった。
こんなに苦しい感情なら、心から溢れて無くなった方が彼のためだ。珍しく、黒法師はそんなことを考えたのだった。
顔を上げた青梅の目尻にも頬にも、涙は無い。瞳は微かに潤んでいるようにも見えるが、暗い照明の中では根拠が薄かった。
「……アンタ、変な奴だね。オレから山吹を奪ったくせに、なんでオレにも優しくすんの?」
「なんでやろね。君の気持ちが、ちょっとやけど分かるからやろか」
「なにそれ。アンタも誰かに失恋したとか?」
「ちゃうよ。僕のは、始まる前に終わってしもた」
意味が分からない。青梅の目がそう言いたげでも、黒法師は事細かに説明する気は無かった。
「だけど、もしも始まっていたら。きっと、今の君と同じ気持ちになっとった。だから『ちょっとやけど』君の気持ちが分かるってところやね」
今の青梅に、黒法師の恋愛事情なんて関係ない。ならば、語るだけ不毛だ。
「ふぅん。アンタ、ザンネンなヘンタイなんだね」
「おおきに」
「いやその返しは普通におかしいから」
青梅にジトッと睨まれて、なぜか慰めているはずの黒法師が元気になってしまったのだが。
そんな黒法師を見て、青梅もつられて笑ってしまった。
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