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「──どうしていきなり、あんなにボクを辱め始めたんですか?」
それは、山吹が下着を替えてからすぐのこと。
ぷくっと頬を膨らませながら、山吹は桃枝に問い詰めていた。……ベッタリと、身を寄せながら。
賢者タイムを疾うに通り越し、普段の調子を取り戻した今現在。桃枝はもたれかかる山吹をいつものように『可愛いな』と思いながら、気難しい顔で答えた。
「さっきも言っただろ。調子に乗ったんだよ」
よく分からない。山吹が頬を膨らませて黙っていると、桃枝はそろりと手を動かした。
片手で山吹の頬を挟み、そのまま指先に力を入れる。無論、山吹の頬に溜まっていた空気は抜けた。
不服そうな山吹を見て、桃枝は口角を薄く上げる。
「最近のお前は、なんて言うのが適切か分からないんだが、そうだな。……いい感じだ」
頬を挟んでいた手を動かし、桃枝は山吹の頭を撫でた。
「以前より、俺に気持ちを伝えてくれるようになった。甘えてくれるようになったし、優しくて──いや、優しいのは前からだな」
「課長? なにを言いたいのか、よく分からないのですが……?」
「つまり、なんだ。……だから、余計に強く思う。『お前が、自分の欲求を素直に表現してくれることが嬉しい』って。俺の迷惑を少しずつ度外視して、自分の気持ちを伝えてくれるのが嬉しいんだよ」
本心だ。本心から、桃枝が笑っている。
これが別の人間への評価なら、それは明らかに【退化】だろう。相手の迷惑を考えずに自分の気持ちを押し付けるなんて、人間性の退化以外に考えられない。
だが、桃枝は山吹に『それが嬉しい』と言っている。【退化】を【変化】と言い、喜んでいるのだ。
「それで、調子に乗っちゃったんですか? ボクが、甘えたから?」
「お前が可愛いのは前から知っちゃいたんだが、限界突破した」
「なるほど?」
やはり、分からない。
分からないのだが、不思議と嫌な気はしなかった。だから山吹は、それ以上なにも言えなくなってしまう。
黙った山吹の頭を撫でたまま、桃枝は微笑みを崩すことなく訊ねた。
「なにか心境の変化でもあったのか?」
「そう、ですね。……はい、ありました」
顔を上げて、山吹はおずおずと口にする。
「課長のことを、ギュッと抱き締めてもいいですか?」
無論、桃枝の微笑みは揺らがない。
「あぁ。来るのを待っていた」
「なんですか、それ。だったら、課長から来てくれてもいいですのに」
「お前から求められたかったんだよ」
「ワガママさんですね、まったくもう」
それでも抱き着くのだから、山吹だって十分、我が儘だ。
桃枝の体温をしっかりと感じながら、山吹はつい先ほど問われたばかりの言葉に対する答えを口にした。
「青梅との一件で、ボクは課長に対してズルい男だったと気付きました。痛いくらいに、再認識してしまったんです」
静かに語り始めた山吹と向き合い、回された腕に応えるよう、桃枝は山吹を抱き締める。
「そうか。……続けてくれ」
その際も、桃枝の視線は優しいものだった。
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