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 しかし、ただ翻弄されるだけの山吹ではない。桃枝の注文を脳内で反芻してすぐに、山吹はピコンと【あること】に気付いた。 「あの、課長? ボクが課長にご褒美をあげるなら、もしかして課長もボクにご褒美をくれるってことですか?」  当然の応酬だろう。山吹は若干興奮気味に、桃枝との距離を詰めた。  山吹からの接近にギュッと胸を締め付けられ、しかもキラキラと輝く瞳まで向けられて。桃枝は一度、小さく呻く。  が、期待に胸を膨らませている山吹に返事をしなくては。桃枝はすぐに、表情をいつもと同じように強張らせた。 「そうだな。まぁ、俺はお前にならいつだって褒美をやりたいくらいなんだがな。お前は生きているだけで褒められるべき存在だ。偉いぞ、山吹」 「ありがたみがあるような、薄いような……」  まさか、生きているだけで褒められて頭を撫でられるとは。いつも予想に反した言動を取る桃枝だが、今回もまた一本取られてしまった。驚きながらも、山吹は素直にナデナデを受け取る。  なんにしても、桃枝同様に山吹もご褒美チャンスを手に入れた。頭を撫でられながら、山吹はウキウキと胸を弾ませる。 「でも、それならボクはなにをご褒美にもらおうかなぁ~」 「なんだよ。さっき自分で『捕らぬ狸の皮算用』とか言ってたくせに、お前も同じじゃねぇか?」 「ちっちっ! 分かってないですね、白菊さん? ボクのは【ひよこは秋に数えるもの】ですよ~?」 「意味は同じだろ」  よくは分からないが、とにもかくにも山吹がはしゃいでいるのだ。桃枝にとって、これ以上嬉しいことはない。  もう一度ポンと頭を撫でてから、桃枝は微笑みを浮かべる。 「じゃあ、今まで作り続けてくれた分の褒美を考えておいてくれ。俺も、なんだって叶えてやるよ」  瞬間、山吹の瞳がキラリと光った。 「それって、一括払い的なご褒美もアリですか?」 「なるほど、そうきたか。まぁ、いいぞ。グレードの高い褒美をやる」  たかが褒美ではしゃぐなんて、やはり山吹は可愛い。桃枝はしみじみと、恋人の愛らしさを噛み締めた。  桃枝のどこか凪いだような心情には気付かず、山吹はフンフンと興奮気味に桃枝を見上げる。 「ヤッタ! それじゃあボク、ご褒美決まりましたっ!」 「早いな。なんだ?」  ニコリと笑った後、山吹は桃枝の背に回していた手を動かす。  それから山吹は、桃枝に見えるよう手の動きを見せつけて──。 「ボクへのご褒美は、今から明日の朝まで【抜かずに連続中出し濃厚汁だくセックス】を──」 「──常識の範囲内で頼む」 「──ケチ!」  片手で輪を作り、その輪に指を突っ込もうとしたものの、桃枝に止められた。酷い。『なんだって叶えてやる』と言ってくれたのに。  ぷくっと頬を膨らませて拗ねる山吹を見て、桃枝は困ったように「よしよし」と言いながらあやし始めた。  無論、山吹は「ボクの機嫌を取るくらいならご褒美くださいよぉ~っ!」と駄々をこねたのだが。山吹が求めた褒美は、顔を赤らめて拒否を続ける桃枝から与えられることはなかった。 11.5章【ひよこは秋に数えるもの】 了

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