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 着替えなどの支度を終えてから、桃枝はキッチンに向かっていた山吹に近付いた。  桃枝の接近に気付いた山吹は、ニコリと笑みを浮かべて桃枝を振り返る。 「お着替え、終わったんですね。……えっと、早速で申し訳ないのですが、白菊さんにはこっちのお皿と食器をテーブルに運んでいただきたいです。いいでしょうか?」 「任せろ。得意分野だ」 「わあっ、カワイイです! ドヤ顔もステキですねっ!」 「やめろ恥ずい」  桃枝が山吹を普段から甘やかすように、山吹もまた、桃枝を甘やかす癖のようなものがついているのかもしれない。  些細なところでときめくなんて、確実に桃枝の影響だ。少しだけ反省しよう。……少しだけ。  小さな反省をしながら食卓テーブルに食器を運び、桃枝は山吹と共に夕食の準備を始める。 「今日はカボチャのグラタンを作ってみましたよ」 「グラタン? 随分とまた、難しそうな料理に挑戦したんだな」  山吹を嗅いで──訂正。吸って気付いた【甘い匂い】の正体は、どうやらカボチャだったらしい。 「ツナ缶を使ったのですが、ボクは脂っぽいのが苦手なのでオイルは捨てました。……課長のお好みとは、違いましたか?」 「いや、特に。こだわりはないし、そもそもその説明がよく分かってねぇ。だから、お前に合わせてもらって構わない」 「良かったっ。ありがとうございますっ」 「くッ。これくらい、お安い御用だ……!」  食の好みを山吹に寄せるだけで、花のように愛らしい笑顔を向けられるなんて。この方法なら、嫌いな食べ物だって食べられるようになりそうだ。  先ほどの反省はすっかり頭から抜け落ち、桃枝はあっさりと山吹にときめく。なぜなら、山吹が可愛いからだ。仕方ない。  その間も、山吹は料理の説明をほんのりと得意気に続ける。 「グラタンって、そこまで時間はかからずに案外サクッと作れますよ。電子レンジを使う工程は多いですが、その間に別の作業をすれば時短……とは、違いますけど。とにかく、淡々と進められる作業ですので」 「そういうものなのか? いまいち、イメージが湧かねぇんだが……」  得意気な山吹も可愛いと思いながら、桃枝は山吹の隣に立つ。 「例えば、そうですねぇ……。カボチャを柔らかくするためにレンジでチンするのですが、その間にこのホワイトソースを作っちゃう。……みたいな」 「なるほどな」  よくは分からないが、山吹の手際がものすごく良いということは伝わった。つまり、何度目か分からない惚れ直しだ。 「お前は偉いな」  気持ちが溢れた末、桃枝は山吹の頭をポンと撫でる。そしてすぐに、その頭から手を退けた。  すると、山吹がチラリと桃枝を見上げる。 「……一回だけ、ですか?」  ギュワッ、と。桃枝の胸が、愛おしさによって締め付けられた。 「っ。……可愛いこと言ってくれるじゃねぇか」  下ろした手を再度上げて、桃枝は山吹の頭を撫でる。やはり、恋人という存在は堪らなく堪らない。  脳内で無事に語彙力を消失させつつ、桃枝はふと、視線を下げた。 「それにしても、南瓜は硬いだろ。手とか指とか、怪我してないか?」 「っ!」  思い付いたままに、山吹の手を握る。ちょっとした触診のようなものだ。山吹だって、それくらいは分かっているはず。 「だ、大丈夫、です」  それなのに、顔が赤い。山吹の表情に気付くと同時に、桃枝もつられたように顔を赤らめてしまった。

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